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現在までの成果

緑茶摂取と乳がん罹患との関係について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2010年現在)管内にお住まいだった、40~69才の女性約5万4000人の方々を、平成18年(2006年)まで追跡した調査結果にもとづいて、緑茶の摂取量と乳がん発生率との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します (Breast Cancer Research 2010年12巻R88)。

緑茶に豊富に含まれるポリフェノール類(主にカテキン類)には抗酸化作用があり、細胞および動物実験から乳がんを予防する可能性が示されています。しかしヒトを対象とした疫学研究では、緑茶と乳がんリスクとの関連は一致していません。

緑茶摂取量と乳がんリスクの間には関連を認めない

本研究では、研究開始時(ベースライン調査)と研究開始から5年後(5年後調査)に行った2つのアンケートの回答をもとに、緑茶摂取と乳がん罹患との関連を検討しました。
ベースライン調査のアンケートに回答した53,793人の女性のうち、約13.6年の追跡期間中、581人に乳がんが発生しました。緑茶摂取の回答から、週 1杯未満飲む人を基準として、緑茶を週1-2杯、週3-4杯、1日1-2杯、1日3-4杯、および1日5杯以上飲むグループで、乳がんのリスクが何倍になるかを調べました。
この解析対象者のうち週 1杯未満飲む人は12%、一方、1日5杯以上飲む人は27%でした。また、緑茶摂取と乳がんリスクとの間には関連は見られませんでした(図1)。この結果は、アンケートの回答をもとに閉経前と閉経後に分けた場合も同様でした。

図1 緑茶摂取と乳がんリスク(ベースライン調査のアンケートを用いた解析)

5年後調査のアンケートに回答した43,639人の女性のうち、約9.5年の追跡期間中、350人に乳がんが発生しました。緑茶摂取(煎茶および番茶・玄米茶)の回答をもとに、週 1杯未満飲む人を基準として、緑茶を週1-6杯、1日1杯、1日2-3杯、1日4-6杯、1日7-9杯、および1日10杯以上飲むグループで、乳がんのリスクが何倍になるかを調べました。
この解析対象者のうち、週 1杯未満飲む人は、煎茶が22%、番茶・玄米茶が30%、一方、1日10杯以上飲む人は煎茶が5.2%、番茶・玄米茶が2.5%でした。また、煎茶および番茶・玄米茶のいずれも乳がんリスクとの間に関連は見られませんでした(図2)。これらの結果は、アンケートの回答をもとに閉経前と閉経後に分けた場合も同様でした。

図2 緑茶摂取と乳がんリスク(5 年後調査のアンケートを用いた解析)

この研究について

緑茶と乳がんリスクとの関連は、すでに日本人を対象としたコホート研究(東北大学のコホート、原爆被爆者のコホート)から「関連なし」という報告があります。しかし、これらのコホート研究では緑茶を最も多く飲む群が1日5杯以上であり、それ以上飲む群においてリスク低下が見られるかどうかは明らかではありませんでした。
本研究の大きな特徴は、緑茶をほとんど飲まない人(週1杯未満)から1日10杯以上の飲むという人まで、非常に幅広い摂取量の範囲の中で乳がんリスクとの関連を検討している点です。その結果、1日10杯以上と非常に多く飲む人においても乳がんリスクの低下は見られず、日常生活において飲用する範囲では乳がんリスクに関連しないことが示唆されました。
実際のカテキン類の摂取量は、茶葉の種類・量、入れ方などの影響を受けます。したがって、緑茶を飲む回数や杯数を尋ねるアンケート調査では、カテキン類の摂取量の違いまで反映できていない可能性があります。この点について、多目的コホート研究の保存血液を用いたコホート内症例対照研究において、主要な4つの血中カテキンの濃度は乳がんリスクと関連しないことを報告しています。
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/392
これは今回の結果を支持するもので、緑茶の摂取頻度・量および血中カテキン濃度という2つの異なる評価方法で一致して関連が見られなかったことになります。
一方、結果の解釈には以下の点を考慮する必要があります。本研究は、日本人女性約54,000人を対象とした大規模コホート研究ですが、摂取量の多い群の症例数は必ずしも多くないため、比較的小さなリスク低下あるいはリスク上昇の存在は否定できません。また、乳がんリスクに関与すると考えられる他の要因(年齢、初経年齢、閉経状況、閉経年齢、初産年齢、出産数、身長、肥満指数、飲酒、喫煙、身体活動、外因性ホルモン剤使用、家族歴など)の影響をできる限り小さくするよう調整しましたが、それでも何らかの影響が残っている、あるいは今回考慮できなかった別の要因の影響があったために、緑茶の影響が見えなかった可能性は否定できません。

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