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多目的コホート研究(JPHC Study)

糖尿病と虚血性心疾患との関連について

-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2010年現在)管内にお住まいだった方々のうち、循環器病にもがんにもなっていなかった40~69歳の男女約3.1万人を、2006年まで平均12.9年間追跡しました。

本研究では、ベースライン調査での空腹時(最後の食事から8時間以上経過)もしくは随時血糖検査から、正常群、境界群、糖尿病群に分類し、その後の虚血性心疾患発症のハザード比を検討しました。正常群とは、空腹時血糖値100mg/dl未満、随時血糖値140mg/dl未満の者、境界群とは、空腹時血糖値100~125mg/dl、随時血糖値140~199mg/dl、そして、糖尿病群は空腹時血糖値126mg/dl以上、随時血糖値200mg/dl以上、もしくは糖尿病治療中の者、とそれぞれ定義しました。この研究結果を国際学術専門誌に発表しましたので紹介します。

Atherosclerosis 2011年216巻187-91ページ

これまでの欧米の研究からは、糖尿病と虚血性心疾患発症との間に強い関連が認められてきましたが、わが国においては、虚血性心疾患の発症率が低いこともあり、コホート研究を用いた疫学的な検討はあまりされていませんでした。

 

糖尿病群で虚血性心疾患発症リスクが3.05倍上昇

追跡調査中に、266人の非致死性、あるいは致死性の虚血性心疾患発症が確認されました。正常群、境界群、糖尿病群の年齢調整済み虚血性心疾患発症率(人口千対)は、それぞれ男性が1.00、1.37、2.06、女性が0.30、0.29、1.02でした。ただし、女性での虚血性心疾患発症数は境界群10人、糖尿病群10人と少なかったため、分析は男女あわせて行いました。また、性、年齢、採血時間、地域で調整したハザード比と、交絡因子として、さらに既知の危険因子である肥満度、高血圧、脂質異常、喫煙、飲酒、運動を調整したハザード比を算出しました。
その結果、全虚血性心疾患発症に対する性、年齢、採血時間、地域を調整したハザード比は、正常群を1とした場合、境界群で1.65倍、糖尿病群で3.05倍でした(図1)。また、虚血性心疾患のうち、もし血糖値が正常域であったなら防げていたはずと考えられる割合(人口寄与危険度割合)を計算してみますと、境界群で6.9%、糖尿病群で6.3%でした。虚血性心疾患を非致死性と致死性(発症から4週間以内に死亡した場合)に分けて検討したところ、少し致死性の虚血性心疾患に対する糖尿病群のハザード比が高くなりましたが、大きな違いは観察されませんでした。

 

図1 糖尿病群と境界群の虚血性心疾患発症リスク

空腹時血糖値100mg/dl以上から虚血性心疾患発症のハザード比が1.61倍

次に、ベースラインの時点において糖尿病治療中の方を除き、空腹時血糖値あるいは随時血糖値のレベル別に虚血性心疾患発症リスクとの関連を調べました(図2)。
空腹時血糖値は、100mg/dl未満、100-125mg/dl、126mg/dl以上の3群に分類しました。また、随時血糖値は、140mg/dl未満、140-199mg/dl、200mg/dl以上の群に分類しました。性、年齢、地域を調整した場合、空腹時血糖値が100-125mg/dl群のハザード比は、100mg/dl未満の群に比べ1.61倍と有意に上昇しました。さらに、空腹時血糖値126mg/dl以上の群では4.05倍まで上昇し、空腹時血糖値と虚血性心疾患発症のハザード比との間に有意な正の関連を認めました(傾向性P<0.001)。また、肥満度や高血圧などの既知の危険因子を調整した場合、各空腹時血糖値群のハザード比は少し低下しましたが、空腹時血糖値が高くなるに従って、虚血性心疾患発症のハザード比は有意に上昇しました(傾向性P=0.003)。
一方、随時血糖値は、140mg/dl未満の群に比べ、140-199mg/dlの群のハザード比が有意に上昇し、随時血糖値が高くなるに従って虚血性心疾患発症のハザード比も有意に上昇しました(傾向性P=0.039)。


 図2 空腹時血糖値と随時血糖値のレベル別にみた虚血性心疾患リスク 

まとめ

本研究から、糖尿病群の虚血性心疾患発症に及ぼすハザード比は3倍にまで増加しました。糖尿病予備群と呼ばれる境界群においても約1.5倍まで虚血性心疾患発症のリスクが有意に増加することが確認できました。日本人での虚血性心疾患発症率は欧米に比べると極めて低いことから、これまでにこのようなエビデンスを出すのは非常に困難でした。また、本研究では、糖尿病でなかったら防げていたはずと考えられる虚血性心疾患発症の割合は全体の6%程度になりました。

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