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多目的コホート研究(JPHC Study)

飲酒と脳卒中発症との関連について

「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に行いましたアンケートにて、生活習慣について回答していただいた、40〜59歳の男性約2万人の方々を、11年間追跡した調査結果にもとづいて、飲酒と脳卒中発症との関連を調べた結果を国際専門誌Stroke 2004年35巻1124-1129頁に発表しましたので紹介します。飲酒に関して、出血性脳卒中と脳梗塞への影響の違いを同一のコホート研究で明らかにしたのは国内外で初めてです。

「1日平均3合以上」お酒を飲む人は、「時々(月に1〜3回)飲む」人に比べて、1.6倍脳卒中になりやすい

アルコール摂取量が日本酒にして「1日平均3合以上」の人は、「時々飲む」人に比べて、1.6倍脳卒中になりやすいことがわかりました(図1)。アルコールには血圧上昇作用がありますので、高血圧の有無を考慮しますと、上記の関係は少し弱くなりますが、依然として1.4倍脳卒中になりやすい事がわかりました。このことから、アルコールで脳卒中になりやすくなるのは、高血圧をもたらすこと以外にも原因があると考えられます。

図1.飲酒と全脳卒中の発症との関係

アルコール摂取で脳卒中の発症が増えるのは、出血性脳卒中(特に脳内出血)の発症が増えるためです

アルコール摂取量が日本酒にして「1日平均約1合未満」から、飲酒量が増えるにつれて、出血性脳卒中の発症率は段階的に増えていきます(図2)。この理由としてはアルコールの血圧上昇作用以外に、血液を固まりにくくする作用が働いているためと考えられています。

「1日平均1合未満」お酒を飲む人は、「時々飲む」人に比べて、脳梗塞にかかりにくい

アルコール摂取量が日本酒にして1日1合未満では、「時々飲む人」に比べて、脳梗塞は約4割少ないことがわかりました(図2)。この理由としては、アルコールの作用で善玉コレステロールであるHDL-コレステロールの血中濃度が上がること、血液が固まりにくくなることがあげられます。以前、フランスの研究を中心として、ワインの抗酸化作用が動脈硬化性疾患の予防に有効と言われていましたが、今回の脳梗塞の抑制作用には、特にワインだけが関与しているわけではないと考えられました。なぜなら、今回の対象者でワインを飲んでいる人は、飲酒者の0.1%に満たなかったからです。

図2.飲酒と出血性脳卒中、脳梗塞の発症との関係

脳卒中にならないためには、1日平均3合未満、望ましくは1日平均1合未満

以上をまとめると、脳卒中の発症確率が高くならないためには、お酒を飲むにしても1日平均3合未満にとどめておく必要があります。1日平均1合から 3合未満では、全脳卒中の発症率は統計学的有意には増えませんでしたが、この飲酒量では、がんの死亡率や大腸がんの発症率が増加してしまうことが、われわれのコホート研究ですでにわかっています。従ってお酒を飲む場合には1日平均1合未満の飲酒とすることが、勧められるものと思われます。ただし、1日1合未満の飲酒が脳梗塞にかかりにくいからといって、お酒を飲まない人に飲酒をすすめることを示すものではありません。

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