多目的コホート研究(JPHC Study)
たばこと自殺について
―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県柏崎、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2004年現在)管内にお住まいだった40から69歳の男性約4万5千人の方々を平成12年(2000年)まで追跡した調査結果に基づいて、たばこと自殺との関係について調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので、紹介します(Annals of Epidemiology 2005年15巻286-292ページ)。
たばこを吸わない人に比べて、たばこを吸う人は30%自殺リスクが高い
登録時に実施したアンケート調査では、対象者のうち25%がたばこを吸わない、23%がやめた、52%が吸うと回答されました。その後約8.5年の間に173人の自殺が確認されました。たばこを吸わない人、やめた人、吸う人の3つのグループに分けて自殺リスクを比べたところ、たばこを吸うグループでは、吸わないグループに比べて30%高くなっていました(図1)。しかし、この値は偶然に得られた可能性を否定できない結果です。
特に、たばこの総量が多い人の自殺リスクは高い
ある人がある時点までに吸ったたばこの総量を、一日の喫煙本数÷20×喫煙年数(喫煙指数)で表わすことができます。たとえば、一日40本を30年吸った人の喫煙指数は、40÷20×30=60になります。今回の調査では、たばこを吸わないと答えたグループに比べて、吸うと答えた人のうち喫煙指数が60以上のグループの自殺リスクが、統計学的に見ても明らかに高く(2.1倍)なっていました(図2)。
たばこを吸う人のなかでも、一日に吸う本数が多ければ多いほど自殺リスクが高い
次に、たばこを吸う人のなかで、一日に吸う本数、また吸いはじめてからの年数ごとに検討したところ、一日に吸う本数が多くなるにつれて自殺リスクが統計学的に見て明らかに高くなる傾向が見られました(図3)。一方、吸いはじめてからの年数は自殺リスクと関係がありませんでした。
喫煙者で自殺のリスクが高いわけ
たばこと自殺を結びつける具体的なメカニズムはよくわかっていませんが、喫煙者で自殺のリスクが高い理由の一つとして、喫煙者はうつ病のリスクが高く、またうつ病自体が自殺の危険因子でもあるので、うつ病を介して自殺のリスクが高くなることが考えられます。またニコチン依存症もうつ病のリスクになると指摘されています。喫煙者の中でも一日に吸う本数の多いグループでは、ニコチンに対する依存度がより高いと考えられるので、このグループでの自殺リスクが高かったと考えられます。しかし、喫煙またはニコチン依存症とうつ病の関係も不明な点が多く、現段階では必ずしも確立された関係とはいえません。
一日に吸う本数が多い喫煙者に注意
1998年以来、自殺者の数が年間3万人を超え、日本は自殺による死亡率が世界中で最も高い国の一つになりました。また、自殺者の多くは中年(40 - 50歳代)です。自殺の危険因子としては、うつ病などのこころの病が知られていますが、今回の結果から、日本人の40 - 69歳の男性のうち、1日のたばこの本数が多いグループは自殺リスクが高いことが分かりました。たばこと自殺の関係については不明な点が多く、今後更なる研究が必要ですが、これまでのところ自殺リスクの高い人を見分ける良い方法がないことから、自殺予防のためには、喫煙者のうち特に1日に吸う本数の多いグループのこころの健康に注意を払う必要があると言えるでしょう。
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