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現在までの成果

魚・n-3脂肪酸摂取と虚血性心疾患発症との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。まず、平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所(呼称2005年現在)管内にお住まいの40~59歳の男女に、食事調査を含む生活習慣についてのアンケートに回答していただきました。平成7年(1995)年には、より詳しい食事調査を含む2回目のアンケートで、当時の生活習慣について回答していただきました。そのうち、初回調査時点で循環器病にもがんにもなっていなかった男女約4万人の方々を、約11年追跡しました。
これらの調査結果をもとに、魚・n-3脂肪酸摂取と虚血性心疾患発症との関連を調べました。虚血性心疾患とは、心臓に血液を送る動脈の硬化や血栓などによって、心臓の血流が悪くなることで生じる疾患で、代表的なものに心筋梗塞症があります。魚およびn-3脂肪酸の摂取量は、2回の食事調査をもとに、摂取する魚の種類と1週間の摂取頻度、1回あたりの摂取量から算出しました。この研究結果を国際専門誌(Circulation 2006年113巻195-202ページ)に発表しましたので紹介します。
今回の研究によって、日本人のように魚をよく食べる集団の中でも、魚やn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いと、虚血性心疾患に予防的な効果があるということが示されました。

魚を多く食べるグループで虚血性心疾患のリスクが低下

追跡期間中に男性207人、女性51人、合計258人に虚血性心疾患が確認されました。虚血性心疾患リスクを、魚の摂取量による5つのグループの間で比較しました。高齢、男性、喫煙、肥満などの他の要因によってもリスクが高くなることがわかっていますので、あらかじめ影響を除いた上で、魚との関連を検討しました。すると、摂取量が最も少ない1日約20gのグループに比べ、その他のグループではいずれもリスクが下がり、最も多いグループでは40%低くなりました(図1)。また、全虚血性心疾患のうち、また、全虚血性心疾患のうち、診断の確実な心筋梗塞(心電図、血液検査などから確定)に限った場合には、リスクの低下傾向がよりはっきり示されました。

図1. 魚摂取量と虚血性心疾患

n-3系多価不脂肪酸摂取量が多いグループで虚血性心疾患のリスクが低下

魚に豊富に含まれるEPAやDHAといった二重結合をたくさん持った脂肪酸(n-3系多価不脂肪酸)には、血小板凝集能の阻害、血液の粘稠度を下げるなどの働きがあります。これが、魚によって虚血性心疾患が予防できる理由の一つと考えられています。 そこで、虚血性心疾患リスクを、EPAとDHAの摂取量によって5つのグループに分けて比較しました。その結果、摂取量が最も多いグループの虚血性心疾患のリスクは、最も摂取量が少ないグループよりも約40%低いことがわかりました。 また、魚と同様に、リスクの低下は、診断の確実な心筋梗塞に限った場合に、特にはっきりと見られ、最も多いグループでは約60%、三~四番目に多いグループでも約40%の低下となりました(図2)。

図2.EPA・DHA摂取量と虚血性心疾患

魚の摂取量が多い日本人ならではの研究

これまでも、少し(週1~2回、または1日あたり30~60g)でも魚を食べることが虚血性心疾患の予防につながるという、海外の研究からの報告がいくつかありました。しかし、それ以上の魚の摂取がさらなるリスクの低下につながるかどうかはわかっていませんでした。今回の研究では、魚の摂取量が最も多いグループ(中央値180g、週に8回ペース)でも、虚血性心疾患のリスクが低下しました。このことから、魚による虚血性心疾患予防効果は、週1~2回程度でも期待できるけれども、それ以上に食べるとさらに高くなることがわかりました。

研究の限界

この研究では、結果に影響すると考えられる他の要因や質問票の測定誤差の影響をできる限り小さくするように努めました。しかし、魚を多く摂取したと答えた人たちが健康的な生活習慣を持っていたために、魚が予防的にみえてしまっている可能性が残ります。また脂肪酸の働きについては、魚に含まれる他の予防因子が効いている可能性もあり、さらなる研究が必要です。また、EPAやDHAについては、魚の成分としての摂取量であり、サプリメントの摂取による予防効果は検討していません。

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