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現在までの成果

魚介類摂取と糖尿病との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2011年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、ベースラインおよび研究開始から5年後に行った調査時に糖尿病やがん、循環器疾患になっていなかった男女約5万名を、5年間追跡した調査結果にもとづいて、魚介類摂取と糖尿病発症との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(American Journal of Clinical Nutrition 2011年 94巻 884-91ページ)。

 

魚に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸は、循環器疾患に対して予防的に働くことが知られています。糖代謝に関しては、インスリン分泌やインスリン抵抗性がn-3系脂肪酸の投与によって改善するという実験研究があり、魚の摂取による糖尿病のリスク低下が期待されます。その一方、魚に蓄積した水銀やダイオキシンなどの環境汚染物質による糖代謝への悪影響も懸念されています。そこで、魚介類摂取と糖尿病発症との関連について検討しました。

 

男性で糖尿病発症のリスクが低下

研究開始から5年後に行なったアンケート調査の結果を用いて、魚介類の摂取量により4つのグループに分類し、その後5年間の糖尿病発症(男性572人、女性399人)との関連を調べました。糖尿病の発症は、研究開始10年後に行った自記式調査で、上記追跡期間内に糖尿病と診断されたことがある場合としました。

その結果、男性では魚介類摂取が多いほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向が認められ、摂取量が最も少ない群に比べ最も多い群では糖尿病のリスクが約3割低下していました(図1)。一方、女性では魚介類摂取と糖尿病発症との関連はみられませんでした。

 

図1.魚介類摂取と糖尿病発症のリスク

 

 

小・中型魚および脂の多い魚の摂取により糖尿病リスクが低下

男性において、魚を大きさにより分けて分析したところ、小・中型魚(あじ・いわし、さんま・さば、うなぎ)の摂取は糖尿病のリスク低下と関連していましたが、大型魚(さけ・ます、かつお・まぐろ、たら・かれい、たい類)の摂取は糖尿病リスクとの関連はみられませんでした(図2)。また、魚を脂の量で分けた場合、脂の多い魚(さけ・ます、あじ・いわし、さんま・さば、うなぎ、たい類)の摂取により糖尿病のリスクは低下する傾向がみられましたが、脂の少ない魚(かつお・まぐろ、たら・かれい)では関連はみられませんでした。魚以外の魚介類(いか、たこ、えび、貝類)、塩魚・干物、水産加工品の摂取と糖尿病発症との関連はみられませんでした。

 

図2.男性における魚の大きさおよび脂の量による摂取と糖尿病発症のリスク

 

 

今回の研究では、男性において、魚介類、特に小・中型魚および脂の多い魚の摂取により糖尿病発症のリスクが低下するという結果が得られました。その理由として、魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDのインスリン感受性やインスリン分泌に対する好ましい効果が考えられます。しかしながら、これまでの欧米の研究では、魚の摂取と糖尿病発症との関連について一致した結果は得られておらず、魚の摂取により糖尿病のリスクが上昇したという報告もあります。その一方で、アジア(中国、シンガポール)の研究では、魚の摂取による糖尿病のリスク上昇は報告されていません。日本と欧米では、摂取する魚の種類や調理法が異なることが、研究結果の違いの理由の1つとして考えられますが、この点についてはさらなる検討が必要です。また、女性で関連がみられなかったことについて、はっきりとした理由は分かりませんが、女性は体脂肪が多いため脂溶性の環境汚染物質の影響を受けやすいのかもしれません。

今回の研究では、全対象者に実施された食物摂取頻度アンケート調査から、各グループの魚介類摂取量(中央値)を算出すると、最も少ないグループは、男性では37g、女性では35g、最も多いグループは、男性では172g、女性では163gでした。これらの値は、対象者の一部に実施されたより直接的な食事記録調査から算出された値と対比すると、男性では16~28%、女性では1~10%少なく見積もっています。

多目的コホート研究などで用いられる食物摂取頻度アンケート調査は、摂取量による相対的なグループ分けには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しく、また年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を一般化することは適当とは言えませんので、ここに示した摂取量はあくまで参考値にすぎません。

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