多目的コホート研究(JPHC Study)
胃がん検診受診と胃がん死亡率との関係
-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-
私たちは、いろいろな生活習慣とさまざまな生活習慣病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための「多目的コホート研究」を行っています。
岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいの40~59歳の男女約4万人の方々を、13年間追跡した結果にもとづいて、胃がん検診受診の有無とのその後の胃がん死亡率との関係について調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので、紹介します。
(Intrernational Journal of Cancer 2006年118巻2315-2321ページ )
胃がん検診を受けている人では、胃がんによる死亡率が低い
平成2年(1990年)の研究開始時点のアンケート調査では、対象者の36%が、過去1年間に胃X線検査を受けたと回答していました。そこで、過去1年間に胃X線検査を受けた人(胃がん検診受診あり)と受けていない人(胃がん検診受診なし)とで、その後の胃がんによる死亡率を比較してみました。
調査開始から13年間に636人が胃がんにかかり、179人が胃がんで死亡しました。過去1年間に胃がん検診受診なしの人と比べ、胃がん検診受診ありの人では胃がんによる死亡率が半分(0.52倍)と低下していました。
また、胃がん検診受診ありの人では、胃がん検診受診なしの人と比べて、胃がんを除くがん全体や死亡全体でみた場合の死亡率も低下していましたが、胃がんによる死亡率の低下の度合いが、それ以外による死亡率の低下の度合いよりも大きくなっていました。
結果の解釈
がん検診の効果が本当にあるかどうか判定する指標としては、死亡率が用いられます。そのがん検診を実施することにより、対象となるがんの死亡率が減少するかどうかを見ます。今回の結果では、胃がんの死亡率だけでなく、胃がん以外のがんの死亡率や死亡率全体も低下していました。胃がん検診を受診するような人は、そうでない人より健康意識も高く、より健康的な生活習慣を持つ人が多いため、そのような影響で胃がんのみならず死亡率全体が低下したものと推察されます。しかしながら、胃がん検診受診ありの人は、なしの人と比べて、胃がんの死亡率の低下の度合いが、それ以外による死亡率の低下の度合いよりも約30%程度大きくなっていました。このことから、健康的な生活習慣の影響に加え、胃がん検診を受診すること自体が、将来の胃がんによる死亡率の減少につながっている可能性が考えられます。
胃がん検診の有効性を、最も信頼性の高い方法で評価するには、検診群と非検診群を無作為に割り付ける無作為化比較臨床試験により、本当に胃がんによる死亡が減少するかを長期にわたって追跡し検証する必要があります。
この研究の限界について
胃がん検診を受診しているかどうかは、あくまで調査開始時点の過去1年間についてのものですので、いつも受けているのに、この調査時、たまたま過去1年間に胃がん検診を受診していなかった場合は、検診受診なしの人に分類されてしまいます。また、今までは受けていなかったのに調査開始以降に胃がん検診を継続して受診し始めた人の場合も、検診受診なしに分類されている可能性があり、結果の解釈には注意が必要です。
胃がんの予防
わが国におけるがん検診の有効性評価では、胃X線検査を用いた逐年の胃がん検診は有効と判定され、胃がん死亡率減少の効果があることが証明されています。このことから、胃がん検診の定期的な受診は、胃がんによる死亡の予防に役にたつでしょう。しかしながら、検診はあくまで、既にがんになったものを早く見つける手段です。胃がん検診を受診するだけでよいのではなく、新鮮な野菜や果物をたくさん摂取するとともに塩蔵品など高塩分食品の摂取を控える、また、たばこをやめるなどの胃がんの一次予防を同時に実践して、そもそも胃がんにならないように、努力していくことが大切です。