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現在までの成果

社会経済的要因と胃がん生存率

―多目的コホート研究の成果―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県石川、東京都葛飾の5保健所(呼称は2011年現在)管内にお住まいだった、40~59歳の男女約6万人を平成17年(2005年)まで追跡した調査結果にもとづいて、胃がん患者の社会経済的要因と死亡リスクの関係を調査しました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Gastric Cancer 2010年 13巻222–230ページ)。

研究方法の概要

1990年に40~59歳であった男女対象者で、開始時のアンケートの回答が得られた43,149人(男性20,665人、女性22,484人)のうち、2004年までに胃がんになったことが確認された725人を対象に分析を行いました。

社会経済的状態の指標として、開始時アンケートにお答えいただいた様々な職業を「専門職・事務職」「販売員その他」「農業従事者」「肉体労働者」「無職」(専業主婦を含む)の5つのカテゴリーに分類しました。また、教育については最終学歴によって「中学校」「高等学校」「大学以上」の3つに分類しました。なお、収入についての質問はアンケートには含まれませんでした。

平均で約4年半の追跡期間中に、男性144人、女性53人の胃がん死亡が確認されました。

胃がん生存率は、胃がん検診受診などの健康管理状況による

職業と胃がん生存率の関係を見たい時に、例えば職業によって男女比が異なれば、職業別に算出されるリスクには性別による胃がん生存率の違いが影響するため、職業から来る影響だけを見ることができません。そこで、疫学研究において何らかの要因とリスクの関係を調べる場合には、主題となっている要因以外の要因の偏りが影響しないよう統計的に補正を行います。この研究では3通段階の補正で、「専門職・事務職」に比べ他の職業でどれくらい胃がん死亡のリスクが変わるか(HR1~HR3)を計算しました。

胃がん死亡のリスク HR1 HR2 HR3
補正される要因性別
診断時の年齢
診断時における進行度  
前年に胃がん検診を受けたかどうか    

胃がん死亡のリスクについて計算した3段階の補正をしたリスクを職業別にグラフにすると以下のようになります。

ses

HR1に注目すると、「無職」(ハザード比2.23、95%信頼区間1.27-3.92)と「肉体労働者」(ハザード比1.68、95%信頼区間1.07-2.62)に「専門職・事務職」と比較して高い死亡リスク(=低い生存率)が見られます。しかし、HR2、HR3と補正要因を増やすに従って、その差は縮小していくことを見て取ることができます。HR1で見られる「無職」「肉体労働者」の高い死亡リスクは、実際には職業の違いというよりは、むしろその集団に特徴的な診断の遅れや、胃がん検診の受診率の低さから来ていると考えられます。

さらに性別や年令別の階層に分けて分析を行うと、女性や高齢者では「無職」であっても胃がん死リスクは特に高いというわけではありませんでした。これはこの研究の職業分類における「無職」が専業主婦や引退者を含んでおり、そうした集団では必ずしも健康管理状況が悪いわけではないためと考えられます。

また、男女とも教育歴による胃がん生存率の違いははっきりとはみられませんでした。

この研究について

この研究については、比較的小さなサンプル数、診断法に関する情報の欠如、比較的粗い職業分類など、いくつかの問題点が残されています。また、「無職」に見られる高い死亡リスクは部分的に因果関係の逆転から来ている可能性があります。すなわち、診断前の胃がんを含む健康状態が原因で職を失ったケースがあるのかもしれません。

しかしながら、この研究は社会経済的要因と胃がん生存に関する、日本の個別対象者の職業・教育データを用いた最初の前向きコホート研究であり、職業と胃がん生存率の関係やその原因についての知見を得ることができました。

胃がん死亡を避けるために、さまざまな就業状態の方を対象に胃がん検診の受診率を高めることの重要性が改めて確認される結果となりました。

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