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多目的コホート研究(JPHC Study)

特定集団の相対リスクは一般化できるか

「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病など、国民の生活の質の低下や平均寿命前の死亡に直結する病気との関係を明らかにし、予防に役立てることを目標に、「多目的コホート研究(JPHC研究)」を行っています。

今回の研究は、平成2年(1990年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成5年(1993年)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管轄区域にお住まいで、研究開始時に生活習慣に関するアンケート調査にお答えいただいた40-69歳の男性約4万5500人の集団について、その後平成12年(2000年)まで追跡調査を行ったデータを用いて実施しました。

集団全体を一般住民、そのうち住民健康診査のデータを提供していただいた約1万2200人を特定集団として、喫煙習慣または体型による死亡リスクを比較し、特定集団のリスク値を一般化することが可能かどうかを検討し、その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。
European Journal of Epidemiology 2006年21巻253-262ページ

疫学研究では、患者、健診受診者、看護師や医師などの保健職従事者、公務員など、特定の集団を対象に行われることがよくあります。特定集団を対象にすれば、質の高いデータを集めやすいという利点がある一方で、その結果をどの程度一般化できるかわからないという問題点があります。そこで、多目的コホート研究のデータを用いて、健診受診者という特定の集団から得られたリスク値を一般化できるかどうか検討してみました。

アンケート調査に答えていただいた男性のうち、関連項目の回答に不備がないなどで今回の研究対象となる条件を満たしていたのは、一般住民で約4万2300人、そのうち健診受診者は約1万1400人でした。追跡期間中に死亡が確認されたのは、一般住民で約2400人、そのうち健診受診者は約600人でした。集団の最高齢者は追跡終了時点で80歳未満ですから、いずれも寿命前の死亡とみなすことができます。

これまでの研究結果から、寿命前の死亡リスクは、たばこを吸っている男性で吸ったことがない男性よりも高いこと、また肥満指数(BMI)が19未満のやせ過ぎの男性でBMIが23-24.9の標準体型の男性よりも高くなることがわかっています。今回は、この2つのリスク要因について、集団ごとに、死亡の相対リスクがどれくらい高くなっているのかを調べました。

健診受診者の相対リスクは一般住民と一致しない

まず喫煙者の非喫煙者に対する死亡リスクについては、一般住民では1.5に対し、健診受診者だけでは1.8になりました(図1)。健診受診者だけを対象にした結果では、実際よりも喫煙習慣による死亡リスクを過大に評価してしまうことになります。さらに喫煙本数ごとに分けて調べると、40本以上のヘビースモーカーでは、一般住民では1.6に対し、健診受診者だけでは2.7と、さらに大きな誤差が生じることになりました。

次に、BMIが19未満のやせ過ぎの人の標準体型の人に対する死亡リスクは、一般住民で2.1に対し、健診受診者だけでは1.3でした(図2)。やせ過ぎについては、逆に、健診受診者の結果だけを参考にしたのでは、実際よりも死亡リスクを過小に評価してしまうことになります。

図1.喫煙習慣と死亡リスク
図2.BMIと死亡リスク

健診受診グループと一般住民の違い

なぜ、健診受診者では、リスクの値が一般住民よりも過大、あるいは過小評価されてしまったのでしょうか。健診受診者の特徴として、一般住民よりも健康意識が高いことが挙げられます。そのため、健康的と考えられる生活習慣のグループに属す人が多いことが予想されます。今回の研究でも、健診受診者のたばこを吸わない人とやめた人の割合は一般住民よりも高く、また、死亡率は一般住民より低くなっていました。さらに、リスク要因でグループ分けした場合に、健診受診者の死亡率は、一般住民と同じ様に変化したわけではありませんでした。

喫煙本数別にグループ分けすると、健診受診者集団では、相対リスクの基準となる非喫煙者の死亡率が一般住民集団の3分の2でしたが、本数が増えると両集団の死亡率の差が縮まり、40本以上のヘビースモーカーでは差がなくなりました。そのため、健診受診者では、喫煙者の死亡の相対リスクが過度に高くなってしまいました。

また、BMIについては、健診受診者の分布は一般住民と同様であるにも関らず、19未満のやせ過ぎのグループでも死亡率が高くならないという、一般住民とは異なる特徴が見られました。はっきりとした理由はわかりませんが、健診受診者という特定の集団を対象にしたため、結果的に死亡率の低い、健康的にやせている人に偏って選ぶことになり、標準体型に対するやせ過ぎによる死亡リスクの上昇が抑えられたと考えられます。

特定グループのリスク値は、そのまま一般化できるとは限らない

今回の研究では、年齢、居住地域、高血圧や処方薬の服用、運動、飲酒など他のリスク要因の影響を取り除いて、喫煙習慣、あるいはやせ過ぎによる死亡の相対リスクを、実際に、健診受診者とそれを含む一般住民で算出しました。その結果、いずれも、相対リスクの値は一致しませんでした。

この結果から、疫学研究の結果として、健診受診者など、特定の集団を対象に算出された死亡や発病の相対リスクの値を、そのまま一般化できるとは限らないことがわかります。少なくとも、いくつかの同様の研究結果を注意深く検討する必要があるでしょう。

用語説明

多目的コホート研究について

まず、1990年に平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部に加え、大都市圏として葛飾区(東京都)の5健所管内にお住まいだった40歳から59歳までの男女からなる「コホートI」を立ち上げました。次に、平成5年1993年に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古に加え、大都市圏として大阪府吹田の6保健所管内にお住まいだった40から69歳までの男女からなる「コホートⅡ」を立ち上げました(各保健所の呼称は2006年現在)。

地域住民については全員、大都市については自治体などの健診対象者をあわせ、両コホート約14万人に対し、食習慣・運動・喫煙・飲酒などの状況についてのベースライン調査を実施し、約11万人より回収しました。その後、それぞれ20年の計画で、死亡や病気の発生について追跡調査を継続しています。

調査開始時の「ベースライン調査」では全員から生活習慣アンケート、健康診査受けた方からはそのデータと研究目的の血液試料の提供を受けました。その後、5年後にも同様のデータと試料を収集しました。

現在も追跡調査を実施中で、これまでに死亡や自殺のリスクと、全がん、胃がん、肺がん、肝がん、大腸がん、乳がん、脳卒中、虚血性心疾患、2型糖尿病の発病リスクについて調べた結果をいくつか発表し、その他のがんや、目や歯の病気などについても研究を行っています。

BMI(肥満指数)

BMI(肥満指数)=(体重)kg ÷(身長)m ÷(身長)m

相対リスク

リスク要因の量によって分けられた複数のグループの間でリスクを比較するときに、基準となるグループを設定し、そのグループのリスクを1とした場合に他のグループではどうなるかを数値で表したリスク。要因によるリスクの高さを示し、絶対的なリスク(自然頻度)は示さない。

 

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