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多目的コホート研究(JPHC Study)

血圧指標の一つの脈圧と脳卒中発症との関連について

- 「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果 -

私たちは、様々な生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった、40~69歳の男女約3.5万人の方々を平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、血圧の指標の一つである脈圧と脳卒中発症との関連を調べた結果を論文発表しましたのでご紹介します。(J Hypertens. 2011年 Feb;29(2)巻:319-24.ページ

※脈圧(Pulse pressure)

脈圧は収縮期血圧-拡張期血圧で計算され、心臓の拍出力や末梢血管抵抗などの指標の一つとされています

 

血圧は中高年期における重要な危険因子

高血圧は循環器疾患の重要な危険因子とされています。一言に血圧と言いますが、その指標には、収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧、平均血圧などがあります。今回の研究では、特に脈圧に着目しました。

これまで、脈圧は冠疾患、脳卒中の危険因子であるとされており、高齢者においては循環器疾患への強い影響が認められていますが、それより若い層に限定した脈圧の影響はあまりはっきりしていませんでした。

 

研究方法の概要

40~69歳の男女のうち、アンケートの結果及び健康診断の受診結果の揃っている人から、脳卒中、心筋梗塞、狭心症及びがん罹患歴のある人などを除いた33,372人をこの研究の対象者としました。平均12年間の追跡を行った結果、1,081人の脳卒中発症を確認しました。年齢、性、喫煙状況、飲酒状況、肥満度(BMI)、血清総コレステロール、糖尿病、高血圧、居住地の違いが結果に影響しないように調整を行い、脈圧と脳卒中リスクとの関連を分析しました。

 

 

血圧要素別にみた脳卒中発症との関連

血圧の要素(収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧)別に脳卒中発症との関連を見てみると(図1)、収縮期血圧及び拡張期血圧とも値が高くなるにつれて相対危険度が高くなっています。一方で、脈圧は50mmHgを越えると、脈圧レベルに関係なく相対危険度が高い状態でした。脈圧は収縮期血圧から拡張期血圧を引いて算出することから、この結果は収縮期血圧と拡張期血圧の影響を受けていると考え、収縮期血圧及び拡張期血圧のレベル毎の検討を行いました。

図1.血圧要素別に見た脳卒中発症との関連(相対危険度)

 

脈圧の収縮期血圧及び拡張期血圧レベル別にみた脳卒中との関連

脈圧の脳卒中への影響について、収縮期血圧及び拡張期血圧のレベル別に見ると(図2)、収縮期血圧が140mmHg未満の正常域においてのみ、脈圧が大きいことが脳卒中発症の相対危険度を有意に高くしていました。この結果は、高血圧治療者を除いた解析でも同様でした。

さらに、収縮期血圧が140mmHg未満の者について詳しく見てみました。ベースライン時の脈圧が10mmHg大きくなるに従い、収縮期血圧は8.31(8.07-8.55;95%信頼区間)mmHg高く、拡張期血圧は1.69(1.45–1.93)mmHg低い状況でした。その5年後の状況では、ベースライン時の脈圧が10mmHg大きいと収縮期血圧は3.73(3.30–4.16)mmHg高くなっていましたが、拡張期血圧は変化無く(0.73(0.45–1.01))、また、ベースライン時の収縮期血圧が140mmHg以上になると、これらの関連は認められませんでした。

図2.脈圧の収縮期及び拡張期血圧レベル別にみた脳卒中との関連

 

血圧の指標としての脈圧の使い方

今回の結果から、日本人の中壮年期(40~69歳)において、脈圧と脳卒中発症との間に有意な関連を認めましたが、その危険度は収縮期血圧及び拡張期血圧よりも弱いものでした。その理由として、収縮期血圧が正常域(140mmHg未満)においては脈圧が大きくなると脳卒中発送の危険度が高くなることが認められ、高血圧域に入ると脈圧と脳卒中発症との関係がなくなることが影響を及ぼしていると考えられます。収縮期血圧が正常域の場合に、こういった結果が認められることの機序についてはっきりしませんが、その機序の一つとしては、50歳前後で大きな動脈系の弾性が変化することにより、収縮期血圧が上がり始め及び拡張期血圧は変化なし~やや下がり始めること、すなわち脈圧が大きくなることを鋭敏に捉えていると考えられます。

よって、脈圧の使い方としては、収縮期血圧が正常域の場合に限定して、それほど収縮期血圧が変化無いように思えても、脈圧が大きくなり始めたら特に予防に気をつけ、一方で、高血圧域に入ると脈圧を目安にするよりも収縮期血圧及び拡張期血圧を目安にすることが大切というとらえ方がよいように思われます。

 

 

今後の課題

今回の研究の限界としては、血圧測定は1回測定のみで行っていることが挙げられます。過去の欧米における研究では、繰り返し測定された血圧値を用いた場合と比べて、一回のみの測定による血圧値を用いた場合では、値がやや安定しにくいことから血圧値と循環器疾患リスクとの関係は過小評価されることが指摘されています。それでもなお、脈圧の影響が認められたことは、脳卒中予防にとって脈圧は血圧要素のうちの重要な指標の一つであることを示しています。また、脈圧に着目する際には、基本的な血圧要素(収縮期血圧・拡張期血圧)を無視して脈圧だけを見ることは適切でないということもはっきり示しています。

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