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多目的コホート研究(JPHC Study)

禁煙後の糖尿病リスクについて

‐多目的コホート研究の成果-

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2011年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、ベースラインおよび研究開始から5年後に行った調査時に糖尿病やがん、循環器疾患になっていなかった男女約6万名を、5年間追跡した調査結果にもとづいて、喫煙の状況と糖尿病発症との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(PLoS One 2012年7巻 e17061)。

 

この研究の5年間の追跡期間中に新たに禁煙した人の糖尿病発症のリスクを、更にその後の5年間の追跡期間中に調べ、非喫煙者、過去喫煙者、現喫煙者のリスクと比較しました。男女ともに新たに禁煙した人の糖尿病発症のリスクは非喫煙者よりも高くなりました。また、新たに禁煙した男性のうち、大きな体重増加の無かった人、追跡開始時の肥満度(BMI)が高かった人、喫煙量の多かった人等に、高いリスクがみられました。更に、過去に喫煙経験があった男性を調べたところ、禁煙してから5年間は糖尿病発症リスクの上昇がみられ、その後のリスクは低下している傾向がわかりました。

 

禁煙した人は、男女ともに糖尿病発症のリスクが高い

研究開始から5年間の追跡期間に喫煙することを止めた人を「新たに禁煙した人」と定義して調べました。新たに禁煙した人のその後5年間の糖尿病発症のリスクは、非喫煙者に比べて男性で1.42倍、女性では2.84倍でした(図1)。

禁煙後の糖尿病リスクについて

 

禁煙した男性では、5年後の体重増加に関わらず糖尿病発症のリスク上昇がみられる

新たに禁煙し、禁煙を開始した前後計5年間の体重増加が3kg未満であった男性の糖尿病発症のリスクは、体重増加が3kg未満の非喫煙者の男性に比べて1.46倍でした(図2)。

 

喫煙量の多かった男性には糖尿病発症の高いリスクがみられる

 新たに禁煙した男性のうち、1日に25本以上のたばこを吸っていた男性の糖尿病発症のリスクは、非喫煙者の男性に比べて2.15倍でした(図2)。

喫煙をやめた男性の体重増加および過去の喫煙量と糖尿病

 

禁煙後5年間は糖尿病発症の高いリスクがみられる。

 ベースラインの時点で過去に喫煙歴があった男性を対象に、禁煙した時期を尋ねる調査を行いました。その結果、禁煙後5年未満の男性では、その後5年間の糖尿病の発症のリスクが、非喫煙者の男性に比べて1.41倍上昇することがわかりました。禁煙後5年以上の男性においては、リスクの高まりはみられませんでした(図3)。

禁煙後の糖尿病リスクについて 

この研究について

男女ともに、新たに禁煙した人に糖尿病発症の高いリスクが示唆されました。このように禁煙をした人にも一定期間の糖尿病リスクの高まりがみられるということは、国外の研究でも報告があります。禁煙に伴う体重増加がその理由の1つと考えられますが、今回の研究では体重が増えないグループでもリスクが上がっていました。禁煙による食事摂取量の増加と代謝率の低下が本研究のメカニズムとして示唆されます。更に、インスリン抵抗性への影響や、喫煙による膵臓のβ細胞への悪影響が禁煙後に形を変えて続くなどのメカニズムが考えられますが、まだよくわかっていません。

本研究の結果より、禁煙に成功した方もすぐに安心することなく、しばらくは糖尿病発症リスクの高まりがあることに留意して頂くことが重要です。適正な体重を保つことはもちろん大事なことではありますが、本研究の結果より、禁煙に体重増加が伴わなかった方においても充分な注意が必要です。また、特に喫煙量の多かった方は注意しましょう。禁煙後少なくとも5年間は、健診をきちんと受診する等ご自身の健康に充分に配慮する必要があります。

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