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多目的コホート研究(JPHC Study)

飲酒習慣と心筋梗塞の関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の5保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男性約2万3000人の方々を平成13年(2001年)まで追跡した調査結果にもとづいて、飲酒量と心筋梗塞発症率との関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。
Atherosclerosis. 2007年194巻512-516ページ

適度な飲酒は心筋梗塞を予防するという疫学研究の結果が、心筋梗塞の発生率が高い欧米を中心に多数報告されています。ところで、日本人を含む北方アジア系の人の約半数にはアルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)という酵素の活性が弱い遺伝子タイプであることがわかっています。この遺伝子タイプの人は、飲酒後にエタノールの代謝物であるアセトアルデヒトの血中濃度が高くなり、飲酒するとすぐに顔が赤くなることがわかっています。これまで日本で行われた小規模の研究で、すぐ赤くなる人では飲酒によって心筋梗塞になりやすくなるという報告がありました。この点は、もっと大規模な研究で検討する必要があります。そこで、多目的コホート研究において、平成5年に生活習慣に関するアンケート調査を実施したコホートIIの男性を対象に、まず飲酒ですぐ赤くなる・ならないで分けました。そして、それぞれのグループで、飲酒量とその後約9年の追跡期間中に発症した急性心筋梗塞との関連を調べました。

表 飲酒量ごとの人数と飲酒ですぐ赤くなると答えた男性の割合(合計23,062人)

飲酒は、赤くなる人でもならない人でも、急性心筋梗塞には予防的

対象者のうち、170人が急性心筋梗塞になり、そのうち39人が致死性でした。飲酒後すぐ赤くなるグループでも、赤くならないグループでも、飲酒量が増えるにしたがって、急性心筋梗塞の発症リスクが低下しました。また、1日当たり3合以上の大量飲酒者でも、急性心筋梗塞のリスクが高くなることはありませんでした。(図)

適度な飲酒で急性心筋梗塞リスクが低く抑えられるという結果は、これまで行われてきた疫学研究の結果と一致します。今回、さらに、飲酒の予防効果は、お酒を飲むとすぐに赤くなる人でもならない人でも同じであることが示されました。

図 飲酒と急性心筋梗塞発症

今回の分析では、顔がすぐ赤くなるかどうかの自己申告でグループ分けを行いました。このグループ分けは、ALDH遺伝子タイプとかなり相関することが確かめられてはいますが、いくらか誤分類があることもわかっています。したがって、ALDH遺伝子タイプで分けた場合とは異なる結果である可能性があります。また、飲酒量グループの年齢、肥満指数、高血圧、糖尿病、喫煙、飲酒、野菜や魚の摂取量、居住地域の偏りが結果に影響しないように、統計学的な補正を行いましたが、完全には補正しきれていない可能性があります。

飲酒は、1日1合までに

適度な飲酒は、心筋梗塞のリスクを抑制するという結果は、主に欧米の疫学研究から多数報告されてきました。その予防のメカニズムも、エタノールそのものの効果から、特に赤ワインに含まれるポリフェノールなどの効果まで、幅広く報告されています。今回の分析では、お酒の種類に関わらず、エタノール量に換算して検討しました。エタノールには、善玉コレステロールであるHDL-コレステロールを増やす作用、血液を固まりにくくする作用などが知られています。今回、日本人男性でも、お酒で顔が赤くなる・ならないに関わらず、飲酒による急性心筋梗塞の予防効果が確認されました。

同じコホート研究から、1日当たり平均で1合(日本酒換算)を超える飲酒が、総死亡、がん、全脳卒中、2型糖尿病、自殺のリスクと関連することが、すでに報告されており、前述したアルコールの作用は、必ずしもすべての病気に予防的というわけではありません。

総合的な健康を考えた場合には、飲む人でも1日当たり1合を超えないように気をつけることが大切です。もちろん現在飲まない人が無理をして飲む必要はありません。

 

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