多目的コホート研究(JPHC Study)
葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニン摂取と大腸がん罹患との関連について
「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいだった、40~69才の男女約8万人の方々を、平成14年(2002年)まで追跡した調査結果にもとづいて、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニンの摂取量と大腸がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
(Journal of Nutrition 2007年137巻1808-1814ページ)
今回の研究では、研究開始から5年後(45~74才のとき)に行った、食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニンの1日当たりの摂取量を算出してグループ分けを行い、その後の大腸がん発生率を比べました。その結果、ビタミンB6の摂取量が多い男性で、大腸がんの危険度(リスク)が低くなる可能性が示されました。
ビタミンB6を多く摂取するグループで大腸がんのリスクが低下
追跡期間中に男性335人、女性191人、合計526人に大腸がんが確認されました。大腸がんリスクを、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12のそれぞれの摂取量による5つのグループの間で比較しました。大腸がんリスクは高齢、喫煙、肥満などの他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめこれらの影響を除き、男女別に検討しました。すると男性において、ビタミンB6の摂取量が最も少ないグループに比べ、それよりも多いグループで30~40%リスクが低くなりました。葉酸やメチオニンでは関連が見られず、ビタミンB12ではリスクがややあがる傾向が見られました(図1)。しかし、女性では、どの栄養素でも関連が見られませんでした。
ビタミンB6とアルコール
さらに、飲酒習慣について、週にエタノール換算で150g(日本酒にして約7合)以上と150g未満に分けて調べました(図2)。すると、飲酒量の多い人で傾向がよりはっきりと見られました(傾向の検定が統計学的に有意、p=0.04)。このことから、特に飲酒量の多い人にとって、ビタミンB6を多くとることが大腸がんに予防的に働く可能性が示されました。
ビタミンB6摂取が足りない日本人
葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、メチオニンは、生体内でのメチル代謝において、それぞれ異なる役割を担っています。アルコールやアセトアルデヒドはそれらの代謝経路を阻害したり、栄養素を破壊したりすることによって、大腸がん発がんの初期段階である遺伝子の低メチル化を引き起こすと考えられます。
今回、特にビタミンB6と大腸がんの関連が強かった理由として、日本人の一般的な食事からは葉酸やビタミンB12は十分取れるのに対し、ビタミンB6摂取量は不足していることが挙げられます。その最大の摂取源は白米ですが、茶碗1杯(約150g)に約0.03mgのビタミンB6しか含まれていません。ビタミンB6を多く含む食品(魚・ナッツ・穀類等)を積極的に摂取することが、大腸がんの予防につながる可能性があります。
ビタミンB12摂取量の多い男性でリスクがややあがる傾向が見られたのは、喫煙と飲酒の影響が残ったためかもしれません。また、女性は男性に比べ飲酒習慣のある人が少なかったために、ビタミンB群と大腸がんリスクとの関連がみられなかったと考えられます。
研究の限界
この研究では、結果に影響すると考えられる他の要因や質問票の測定誤差の影響をできる限り小さくするように努めました。しかし、栄養素を多く摂取したと答えた人たちが健康的な生活習慣を持っていたために、これらの栄養素が予防的にみえてしまっている可能性が残ります。また、この結果は食事からの栄養素摂取量のものであり、サプリメントの摂取による予防効果は検討していません。