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多目的コホート研究(JPHC Study)

肥満指数(BMI)、体重の変化と虚血性心疾患発症について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2006年現在)管内に在住の40から69歳の男女約9万人の方々を平成13年(2001年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肥満指数(BMI)、体重の変化と虚血性心疾患発症との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。
Int J Obes [Lond]). 2008年32巻144-151ページ

肥満が心筋梗塞を代表とする虚血性心疾患の発症の危険(リスク)を増大させることは、欧米においては確立された知見です。しかし、日本では欧米に比べ肥満の割合が低く、これまで肥満と虚血性心疾患との関係はあまり明らかにされていませんでした。今回の研究では、研究開始時のアンケート調査で「現在の身長と体重」および「20歳の頃の体重」を尋ね、肥満指数 [BMI: 体重(kg)÷身長(m) ÷身長(m)] によって7つのグループに分けて、その後約10年間に発症した虚血性心疾患との関連を分析しました。また、「20歳の頃」から調査時「現在」までの体重の変化とその後の虚血性心疾患との関連も調べました。

肥満男性で虚血性心疾患の発症リスクが高い

追跡期間中に男性399人、女性119人、合計518人に虚血性心疾患が確認されました。標準的なBMI(23以上25未満)を基準とした虚血性心疾患リスクを、BMIによる7つのグループの間で比較しました。その結果、男性では、BMIが30未満までは虚血性心疾患リスクは変わりませんでしたが、30以上のグループで約2倍高いことがわかりました。一方、女性ではBMIが30以上の肥満者でも虚血性心疾患の発症リスクの上昇は見られませんでした。(図1)また、虚血性心疾患のうち発症後1時間以内の急性死のリスクが、男女とも、BMIが19未満のやせているグループで高い傾向がありました。

図1.BMI値と虚血性心疾患の発症リスク

 
男性で20歳からの体重変化は虚血性心疾患の発症リスクと関係する

次に、男性で20歳のBMI別に、20歳からの体重変化によって5つのグループに分けて分析しました。20歳の頃のBMIが21.7未満の男性では、体重が10kg以上増加したグループの虚血性心疾患の発症リスクは、±5kgのグループに比べて2倍高いことがわかりました。一方、20歳のBMIが21.7以上の男性では、10kg以上減少したグループで、虚血性心疾患の発症リスクが高くなる傾向が見られました。女性については、発症された方の人数が少なかったので検討できませんでした。(図2)

図2.体重の変化と虚血性心疾患の発症リスク

 
虚血性心疾患を予防のための体重コントロール

今回の研究では、BMIが30以上の男性で、欧米人と同様に虚血性心疾患の発症リスクが高くなりました。女性では関連が見られませんでしたが、日本人女性の虚血性心疾患の発症が少なく、正確に評価出来ていなかった可能性があります。

男性でBMI30までは虚血性心疾患の発症リスクは高くならないことや、日本人のBMI30以上の割合が3%程度と小さいことから、肥満が原因となるのは発症者の2%程度にすぎないと推定されます。すなわち、日本では虚血性心疾患の発症リスクにおける肥満の関与はいまだ大きくないと考えられます。

しかしながら、男性で20歳の頃から40歳以降の体重増加で虚血性心疾患の発症リスクが高くなるという結果が、アジア人において初めて示されました。日本人の中年期男性の肥満者の割合が増加傾向にあることから、虚血性心疾患を予防のために、特に20歳の時に痩せていた男性では中年期以降の過度の体重増加を予防することが大切になるでしょう。

 

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