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現在までの成果

亜鉛・ヘム鉄摂取と大腸がんとの関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2012年現在)管内にお住まいだった方々のうち、45~74才の男女約8万5千人の方々を、平成18年(2006年)まで追跡した調査結果にもとづいて、亜鉛・ヘム鉄の摂取量と大腸がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (American Journal of Clinical Nutrition 2012年 96巻 864-73ページ

亜鉛・ヘム鉄はともに赤肉や魚に多く含まれますが、それぞれ大腸がんリスクに対して、亜鉛は予防的に働き、ヘム鉄はリスクを上げることを示す結果が実験データより報告されています。しかし、疫学研究においては、亜鉛摂取と大腸がんリスクについての報告は不足しており、ヘム鉄摂取については、いくつか報告はあるものの結果が一貫していません。さらに、これらの研究は、現在のところ欧米から報告されているものしかありません。アジア人は、欧米人と比較して亜鉛・ヘム鉄ともに摂取が少なく、また欧米と異なり、赤肉よりも魚から多くを摂取しています。そのため、アジア人では欧米人とは結果が異なる可能性があります。

そこで、多目的コホート研究で、日本人における亜鉛およびヘム鉄摂取と大腸がんとの関連について検討しました。

今回の研究対象に該当した男女約8万5千人のうち、追跡期間中に、1284人(男性786人、女性498人)が大腸がんと診断されました。アンケートから算出された1日当たりの亜鉛およびヘム鉄摂取量によって、それぞれ4つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで大腸がんのリスクが何倍になるかを調べました。


全体として亜鉛およびヘム鉄摂取と大腸がんとの関連はみられず

今回の研究では、全般的には、男女ともに亜鉛摂取(図1)およびヘム鉄摂取(図2)ともに大腸がんのリスクとの関連はみられませんでした。

(図1)亜鉛摂取と大腸がんリスクとの関連

調整因子: 年齢、地域、BMI、喫煙習慣、アルコール摂取量、身体活動度、糖尿病既往、大腸がん検診受診、閉経†、外因性ホルモン使用歴†、 マグネシウム*、ビタミンB6 * 、ビタミンB12 * 、葉酸* 、カルシウム* 、ビタミンD * 、n-3不飽和脂肪酸* 、食物繊維*、ヘム鉄* *摂取量はエネルギー調整した値、†女性のみ

 

 

(図2)ヘム鉄摂取と大腸がんリスクとの関連

調整因子: 年齢、地域、BMI、喫煙習慣、アルコール摂取量、身体活動度、糖尿病既往、大腸がん検診受診、閉経†、外因性ホルモン使用歴†、 マグネシウム*、ビタミンB6 * 、ビタミンB12 * 、葉酸* 、カルシウム* 、ビタミンD * 、n-3不飽和脂肪酸* 、食物繊維* 、亜鉛* *摂取量はエネルギー調整した値、†女性のみ

 

但し、男性で飲酒習慣のある人では、亜鉛摂取量が多いほど、大腸がんのリスクが低くなる結果となりました(図3)。しかしながら、飲酒習慣による亜鉛と大腸がんとの間の関連の違いは統計学的にはっきりとしたものではありませんでした。さらに、飲酒量別に検討しましたが、多くなるに従いリスクがより低くなるような関連はみられませんでした。

(図3)飲酒習慣別 亜鉛摂取と大腸がんリスクとの関連(男性)

調整因子: 年齢、地域、BMI、喫煙習慣、身体活動度、糖尿病既往、大腸がん検診受診、マグネシウム*、ビタミンB6 * 、ビタミンB12 * 、 葉酸* 、カルシウム* 、ビタミンD * 、n-3不飽和脂肪酸* 、食物繊維*、ヘム鉄* *摂取量はエネルギー調整した値

 

この研究について

今回の研究から、亜鉛およびヘム鉄の寄与食品が欧米人とは異なり、また摂取量も欧米人よりも少ない日本人では、亜鉛、ヘム鉄ともに大腸がんのリスクに大きな影響を与えているとはいえない結果となりました。

これまでに、ヘム鉄と大腸がんリスクとの関連が欧米から報告されていますが、リスク上昇を報告する研究もあれば、関連がないという報告もあり、結論は一貫していません。欧米ではヘム鉄は主に赤肉や加工肉から摂取されており、これらに含まれる硝酸塩や調理時に生じる焦げ部分のヘテロサイクリックアミンといった、すでに大腸発がんとの関連が報告されているものにより、リスク上昇がみられる可能性もあるかもしれません。それに対して、日本人では魚からヘム鉄を摂取している割合が高いことから、魚に含まれているn-3不飽和脂肪酸やビタミンDなどが大腸がんリスク上昇を抑えていたのかもしれません。

また、これまで報告されている研究では、ヘム鉄と同じように赤肉や魚に多く含まれているビタミンB6やビタミンB12が大腸がんに及ぼす影響を解析時に取り除いていません。私たちは以前多目的コホート研究において、ビタミンB6摂取が大腸がんリスクに予防的に働き、逆にビタミンB12摂取は大腸がんリスクをあげる可能性があることを報告しています(Ishihara J, et al. J Nutr. 2007)。今回、解析に際して、ビタミンB6やビタミンB12の影響を取り除いたところ、ヘム鉄摂取と大腸がんは関連がみられませんでした。すなわち、これまでに報告されているヘム鉄摂取による大腸がんのリスク上昇は見かけ上のものであって、ビタミンB12のようなヘム鉄と同様の食品に入っている他の栄養素が発がんに関与している可能性も考えられます。

亜鉛摂取と大腸がんの関連については、過去の疫学研究も少なく、結果も一致していません。飲酒習慣のある男性において、大腸がんリスクの低下がみられたものの、その傾向は飲酒量に従って強くなるものではなかったため、偶然にみられたものかもしれません。また、飲酒による影響を検討するには、分析対象者の数が足りなかった可能性もありますので、今後さらに大規模な集団での研究が必要と考えられます。

これまでの研究結果から、大腸がんの予防には、過度の飲酒を控え、運動不足や肥満を解消し、禁煙し、加工肉や牛・豚・羊などの肉を食べ過ぎないなど、偏りのないバランスのよい食生活を送ることが重要とされています。日頃からこれらを実践して大腸がんにならないように、予防を心がけることが大切です。

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