多目的コホート研究(JPHC Study)
イソフラボンと脳梗塞・心筋梗塞発症との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。この研究では、1990年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所(呼称2007年現在)管内にお住まいで、循環器病にもがんにもなっていなかった40~59歳の男女約4万人を、2002年まで追跡しました。
研究開始時に実施した食事調査を含む生活習慣についてのアンケート調査から、大豆、豆類(大豆以外)、イソフラボン摂取量のデータを得て、その後約11年の追跡期間中に発症した脳梗塞・心筋梗塞との関連を調べました。この研究結果を国際専門誌に発表しましたので紹介します。
(Circulation. 2007年116巻2553-2562ページ)
大豆とイソフラボンは循環器疾患のリスクを下げるのではないかと考えられていますが、その予防効果の詳細についてはまだよくわかっていません。今回の研究によって、日本人女性で、食事からのイソフラボン摂取による脳梗塞と心筋梗塞予防の可能性が示されました。
大豆をよく食べる女性グループで脳梗塞・心筋梗塞のリスクが低下
追跡調査中に、脳梗塞(587人)、心筋梗塞(308人)の発症が確認されました。
まず、大豆の摂取頻度によって3つのグループに分け、脳梗塞・心筋梗塞の発症リスクとの関連を調べました。すると、女性では、大豆を週に5日以上摂取するグループで、週に0-2日摂取するグループに比べて、脳梗塞のリスクが0.64倍(95%信頼区間:0.43-0.95)、心筋梗塞のリスクが0.55倍(95%信頼区間:0.26-1.09)、循環器疾患による死亡リスクが0.31倍(95%信頼区間:0.13-0.74)と低いことがわかりました(図1・2)。同様の弱い傾向が、味噌汁、インゲンなどその他の豆類の摂取量と、循環器疾患による死亡リスクとの間に見られました。
イソフラボン摂取量が多い女性グループで、リスクが低下
次に、イソフラボン摂取量を算出し、多い順に5つにグループ分けしたときに、女性で摂取量が最も多いグループの脳梗塞のリスクは、最も少ないグループの0.35倍(95%信頼区間:0.21-0.59)、心筋梗塞のリスクが0.37倍(0.14-0.98)、両方をあわせると0.39倍(0.25-0.60)(図3)でした。また、循環器疾患による死亡のリスクも、摂取量のもっとも多いグループと次に多いグループの合計で、最も少ないグループの0.17倍(0.04-0.78)と低くなっていました。
調査開始時に閉経前か閉経後かで女性を分けて調べると、特に閉経後の女性で、イソフラボン摂取量が多いほど脳梗塞、心筋梗塞リスクが低いという関連が見られました。
閉経後女性で、大豆イソフラボン摂取による心筋梗塞・脳梗塞予防の可能性
この研究によって、食事からのイソフラボンの摂取が、日本人女性、特に閉経後の女性で、脳梗塞と心筋梗塞の発症および循環器疾患による死亡リスクを低減させることが、初めて示されました。一方、男性では同様の効果は見られませんでした。
イソフラボンには血中コレステロールや血圧、血糖耐性などを改善する効果がこれまでの研究から認められています。また、イソフラボンだけでなく、大豆に含まれるビタミンEやn-3脂肪酸にも、心筋梗塞や脳梗塞に対する予防効果が知られています。
大豆はイソフラボンの主な摂取源であり、日本の大豆摂取量は他の国に比べるとはるかに多く、摂取量の幅が広いので、その効果が見極めやすいという利点があります。イソフラボンの構造は心筋梗塞に予防的である女性ホルモン(エストロゲン)と類似しているため、特に閉経のために血中エストロゲン濃度が低下した女性で、食事からのイソフラボン摂取の予防効果がはっきり示されたものと考えられます。
この研究結果から、閉経後の女性は、大豆を積極的に食べることによって、脳梗塞や心筋梗塞を予防できる可能性があります。ただし、大豆には、イソフラボン以外に含まれる成分があるため、イソフラボンのみの効果(サプリメント)で脳梗塞や心筋梗塞が予防できるかどうかはわかりません。