多目的コホート研究(JPHC Study)
社会的な支えと循環器疾患の発症・死亡リスクとの関連
「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の5保健所(呼称は2008年現在)管内にお住まいだった、40~59歳の男女約4万4,000人の方々を平成15年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、社会的な支えと循環器疾患発症・死亡との関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。 (Stroke. 2008年39巻768-775ページ)
社会的な支えは、脳卒中・心筋梗塞などの発症と死亡にどう関わるのか
欧米の研究では、社会的な支え(心身を支え安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在)の少ない人では、多い人に比べて、心筋梗塞の発症や死亡のリスク、あるいは脳卒中後の身体機能回復が低下するリスクが高いことが報告されています。人同士のつながりの少ない人は話し相手がいないため、不安や悩みを誰にも打ち明けられずに一人で問題を抱えてしまい、そのことが健康行動やストレス等を介して虚血性心疾患などの疾病に影響すると考えられています。しかし、これまでに日本人で社会的な支えと循環器疾患の発症や死亡の関連を調べた報告はありませんでした。
今回の研究では、研究開始時に行ったアンケートで、①心が落ち着き安心できる人の有無(なし:0点、あり:1点)②週1回以上話す友人の人数(なし:0点、1-3人:1点、4人以上:2点)、③行動や考えに賛成して支持してくれる人の有無(なし:0点、あり:1点)、④秘密を打ち明けることのできる人の有無(なし:0点、あり:1点)を尋ねました。
社会的な支えの指標として、各回答の点数(0点から2点)の合計が5点(最高点)の場合に社会的な支えが「とても多い」グループ、4点を「多い」グループ、2-3点を「ふつう」のグループ、1-0点を「少ない」グループとし、グループ間で脳卒中・心筋梗塞の発症・死亡を比較し、関連を分析しました。 約10年間の追跡期間中に、心筋梗塞(発症)301人・(死亡)191人、脳卒中(発症)1057人・(死亡)327人が確認されました。
社会的な支えが少ないグループは、脳卒中の死亡リスクが高い
その結果、脳卒中の死亡リスクについては、社会的な支えの「とても多い」グループに比べると、「少ない」グループで男女計では1.5倍、男性では1.6倍、女性では1.3倍、高いという結果でした(図1、2)。
一方、脳卒中の発症、心筋梗塞の発症または死亡については、社会的な支えとの関連は見られませんでした。
社会的な支えは脳卒中になったあとの回復に影響
今回の結果より、社会的な支えが少ないグループでは、社会的な支えが多いグループに比べて脳卒中の死亡リスクが高いことがわかりました。この関連は特に男性ではっきりと見られました。しかしながら、社会的な支えの低さと脳卒中の発症リスクとの間には関連がなかったことから、社会的な支えは脳卒中の疾病予防よりも、脳卒中になったあとの回復にとって重要であると考えられます。今回の結果から、婚姻率の低下や高齢人口の増加がみられる日本の社会において、孤立しないように支えてくれる身近な人の存在の大切さが改めて示されることになりました。