多目的コホート研究(JPHC Study)
タイプA行動パターンと虚血性心疾患発症リスクとの関連
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、様々な生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)、平成5-6年(1993-94年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約8万6000人の方々を平成15年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、タイプA行動パターンと虚血性心疾患発症との関連を調べた結果を論文発表しましたのでご紹介します。
(International Journal of Epidemiology 2008年12月37巻1395-1405ページ)
Type A行動パターンは虚血性心疾患発症にどう関わるのか
欧米の先行研究では、タイプA行動パターン(せっかち、怒りっぽい、競争心が強い、積極的などの行動パターン)を持つ人では、持たない人(タイプB行動パターン)に比べて、虚血性心疾患発症のリスクが高いことが報告されています。タイプA行動パターンを持つ人は、喫煙、多量飲酒などの不健康な行動や日常ストレスを受けやすい生活をする傾向にあり、それらを介して虚血性心疾患などの疾病に影響することが先行研究では調べられており、このメカニズムは「タイプA行動パターン仮説」として広く知られています。しかしながら、日本人において、タイプA行動パターンと虚血性心疾患発症との関連を調べた報告はありませんでした。
今回の研究では、研究開始時のアンケートで、①せっかちさ(0:のんびり、1:ふつう、2:せっかち)②怒りっぽさ(0:温和、1:ふつう、2:怒りっぽい)、③積極性(0:消極的、1:ふつう、2:積極的)、④競争心の強さ(0:負けても苦にならない、1:ふつう、2:競争心が強い)の行動パターンについてのお尋ねを行っています。行動パターンの指標として、各回答の点数(0点から2点)の合計が6-8点であるものを「タイプA行動パターン」グループ、5を「ややタイプA行動パターン」グループ、4を「ややタイプB行動パターン」グループ、3以下を「タイプB行動パターン」グループとし、グループ間で虚血性心疾患の発症リスクを比較し、関連を分析しました。
平均で約11年半の追跡期間中、669人に虚血性心疾患の発症が確認されました。
タイプA行動パターンを持つ男性は、虚血性心疾患発症リスクが低い
:「タイプA行動パターン仮説」との不一致
分析の結果、男女合計では統計学的に有意な虚血性心疾患の発症リスクの差は見られませんでした。
男性では、前述の仮説に反して、「タイプB行動パターン」グループで「タイプA行動パターン」グループに比べて、発症リスクが1.3倍高いという結果が見られました。
一方、女性では、統計学的な有意差はないものの、仮説と同様に、「タイプB行動パターン」グループで「タイプA行動パターン」の0.8倍と、発症リスクが低いという傾向が見られました(図)。
タイプA行動パターンには、リスクの高い生活習慣が多い
:「タイプA行動パターン仮説」との一致
次に、行動パターンと生活習慣との関係を分析した結果、「タイプA行動パターン」グループでは、「タイプB行動パターン」グループに比べて、身体活動量は多いものの、虚血性心疾患危険因子である喫煙、多量飲酒、日常ストレスの保有率が高いことが、男女共に認められました。
同様の結果は欧米の先行研究でも観察されており、生活習慣に関しては「タイプA行動パターン仮説」に一致した結果が日本人でも認められました。
タイプA行動パターンの影響は、性・文化的背景によって異なる可能性
今回の日本人における検討では、欧米の先行研究における「タイプA行動パターン仮説」に反して、男性において「タイプB行動パターン」が虚血性心疾患発症リスクの上昇と関係していました。一方、女性では、欧米の先行研究と同様に、「タイプA行動パターン」を持つほど、虚血性心疾患発症リスクが上昇する傾向が見られました。生活習慣における検討では、欧米の先行研究と同様に、「タイプA行動パターン」が喫煙、多量飲酒、日常ストレスなどの虚血性心疾患危険因子と関係しており、男性における虚血性心疾患リスクの不一致は興味深い結果です。
欧米社会と比較して、強調性が強く求められる日本人社会には、せっかち、怒りっぽい、競争心、積極性、敵意性などの行動を表に見せることに否定的な風土があるため、タイプA行動パターンを持つ男性は会社の仲間などとお酒を飲みに行くことでそのようなストレスを発散している一方で、タイプB行動パターンを持つ男性はストレスを内にためこみ、虚血性心疾患リスクを上昇させている可能性があります。
今後、より詳細な検討が必要ですが、今回の結果は、行動パターンの影響が性・文化的背景によって異なることを示しています。