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多目的コホート研究(JPHC Study)

コーヒーと子宮体がんの発生率との関係について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5-6年(1993-94年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県柏崎、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2008年現在)管内にお住まいの方々に、アンケート調査の回答をお願いしました。そのうち、40~69歳の女性約54,000人について、その後平成17年(2005年)まで追跡した調査結果に基づいて、コーヒー摂取と子宮体がんの発生率との関係について調べた結果を専門誌で論文発表しましたので、紹介します。
Int J Cancer. 2008年123巻2406-2410ページ

子宮体がんは、子宮の袋状になった部分の内膜に発生するがんです。同じ子宮がんでも、入り口にできる子宮頸がんとは区別されます。子宮頸がんの主な原因はウイルスの持続感染であることが知られている一方、子宮体がんの発生にはホルモン環境が関与していると考えられています。

コーヒーが体内のインスリンやエストロゲンの濃度に影響を与える可能性が報告されていますが、その摂取量と子宮体がんとの関連を調べた前向きのコホート研究はほとんどありませんでした。

コーヒーをよく飲んでいる人ほど子宮体がんの発生率が低い

多目的コホート研究で、調査開始時のコーヒー摂取頻度により4つのグループに分けて、その後の子宮体がんの発生率を比較してみました。調査開始から約15年間の追跡期間中に、調査対象者約54,000人のうち117人が子宮体がんになりました。

コーヒーを週2日以下飲むグループの子宮体がんリスクを1とすると、1日1~2杯、3杯以上飲むグループではそれぞれ、0.61、0.38とリスクが低下していました。

図.コーヒー摂取と子宮体がん罹患リスク


 
すでに発生していたがんの影響を避けるために、追跡開始から5年間に発症した子宮体がんを除いて分析しましたが、結果は同様でした。また、手術により閉経した女性を除いて分析しましたが、やはり結果は同様でした。

さらに、緑茶についてもコーヒーと同様の分析を試みました。しかしながら、緑茶の摂取量と子宮体がんリスクとの間には、統計学的に有意な関連が見られませんでした。

コーヒーの作用についての考察

なぜコーヒーをよく飲んでいる人で子宮体がんのリスクが低くなるのか、現在のところメカニズムはよくわかっていません。

子宮体がんのリスクを上げるメカニズムに、エストロゲンとインスリンが大きな役割をもっていると考えられています。あくまで仮説の域を出ませんが、コーヒーはこれらの要因、とくにインスリンの分泌に影響を与えて子宮体がんのリスクを低下させるのかもしれません。

疫学研究では、コーヒーを飲んでいる人では飲まない人より糖尿病の発症リスクが低いことが一致して示されています。また、糖尿病でない女性でもコーヒーを飲む人ほどインスリンの分泌が少ないというデータもあります。

これまでの疫学研究結果について

欧米の研究では、ほとんどがコーヒー摂取と子宮体がんとの間に関連を認めていません。しかし日本からは、愛知県がんセンターと東北大学のグループがそれぞれ症例対照研究を行っておりコーヒーをよく飲んでいる人ほど子宮体がんリスクが低いことが報告されています。

欧米ではホルモン補充療法が日本より広く行われているため、その影響によってコーヒーと子宮体がんリスクとの関連が見えにくくなったのかもしれません。

この研究結果について

この研究は、コーヒーと子宮体がんの関連を調べたアジアの前向きコホート研究として初めてのものです。その結果は、日本ですでに報告されている症例対照研究の結果と一致しました。

この研究では、体格指数(BMI)、生殖関連要因、女性ホルモン剤の使用など、子宮体がんリスクに関係する可能性があるコーヒー以外の要因の影響をとりのぞくため、統計学的手法を用い検討しました。しかし、考慮できなかった他の要因が残っている可能性は否定できません。

今後、コーヒー摂取量と子宮体がんリスクの関連が、ホルモン補充療法や閉経状況によってどのように変わるのかなどについて、さらに詳しく研究を進める必要があるでしょう。

 

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