多目的コホート研究(JPHC Study)
女性関連要因と大腸がんとの関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2008年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の女性約4万8千人の方々を平成15年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、女性関連要因と大腸がんとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。
(European Journal of Cancer Prevention 2008年17巻515-524ページ)
生殖・女性ホルモン関連要因と大腸がんとの関連については、危険因子、予防因子の両方の仮説があり、よく解明されていません。このことを検証するために、今回の研究では、研究開始時に行ったアンケート調査の結果を用いて、生殖や女性ホルモン関連要因によるグループ分けを行い、大腸がんにかかる危険性(リスク)との関連を調べました。
がんの既往歴のない48511人が今回の研究の解析対象となり、約12年の追跡期間に538人の女性が大腸がんにかかりました。
全体として大腸がんとの関連はみられず
今回の研究では、全般的には、生殖・女性ホルモン関連要因の大部分で、大腸がんとの関連がみられませんでした。但し、初産年齢の低い人(22歳以下)と比較して、初産年齢の高い人(30歳以上)で、結腸がんにかかるリスクが低下する傾向がみられました。また直腸がんでは、特に関連はみられませんでした。
この研究について
今回の研究から、遅い初産などで結腸がんの罹患リスクが低下する可能性が示唆されたものの、全般的には、生殖・女性ホルモン関連要因は大腸がんの発生に大きな影響を与えているとはいえない結果となりました。
生殖・女性ホルモン関連要因が大腸がんに影響を及ぼすメカニズムはまだ仮説の域をでません。ホルモン剤など体外由来の女性ホルモンはインスリン様成長因子を抑制することにより、あるいは、循環する胆汁酸量を低下させることにより、がん化を抑制し、あるいは、がんと診断された後の生存率を改善する可能性が示唆されています。一方、体内エストロゲンは胆汁酸の産生を増加させるが、プロゲステロンはその産生を低下させるという説もあります。このように、危険因子、予防因子の両説があり、結果的に、生殖・女性ホルモン関連要因と大腸がんとどのように関連するのかについては、過去の疫学研究結果も一致していません。今後のメカニズムの解明が待たれます。
男性も含めたこれまでの研究結果も考慮すると、大腸がんの予防には、過度の飲酒を控え、運動不足や肥満を解消し、禁煙し、加工肉の牛・豚・羊などの肉を食べ過ぎないなど、偏りのないバランスのよい食生活を送ることが重要とされています。日頃からこれらを実践して、大腸がんにならないようにしていくことが大切です。