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現在までの成果

野菜・果物摂取と乳がん罹患との関連について

―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)と平成10年(1998)年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内にお住まいだった、45~74歳の女性約4万7千人の方々を対象に、生活習慣についてのアンケートにお答えいただきました。その回答に基づき、野菜・果物の摂取と乳がん発生との関連を調べた結果を専門誌に論文発表しましたので紹介します(Cance cause control 2013年24巻2117-2128ページ)。

これまでにも、野菜や果物に含まれるビタミン・カロテノイドなどの微量栄養素、抗酸化物質、また、ホルモン関連のメカニズムなどにより、野菜・果物の摂取が乳がんリスクを低くする可能性について報告はありますが、疫学研究では欧米人を対象としたものが多く、日本人についての報告は少ない状況です。そこで、多目的コホート研究において、野菜と果物の摂取と乳がん発症との関連について検討しました。


総野菜・総果物摂取量全体では、乳がん発生との関連は観察されなかった

平均で約10年の追跡期間中に、452人に乳がんの発生を確認しました。アンケート調査の結果にもとづいた野菜と果物の摂取量を四つのグループに分け、そのグループ間で、乳がん発生のリスクを比較しました。分析にあたって、体重、出産回数、飲酒状況など乳がん発生に関連する要因の影響をできるだけ取り除きました。その結果、野菜と果物をあわせた総摂取量と乳がんリスクとの間に関連は観察されませんでした。総野菜、総果物、アブラナ科の野菜、緑葉野菜、黄色野菜、トマト類、柑橘系果物別でみても、統計学的な有意差はみとめられず、関連は観察されませんでした(図1)。

図1.野菜・果物と全乳がんリスク 


閉経前の女性では、「アブラナ科野菜」の摂取量が高いほど、乳がんになりにくい

閉経前と閉経後のグル-プに分けると、閉経前女性において、アブラナ科野菜の摂取量が最も低いグループと比べると、最も高いグループにおいて乳がんのリスクが低く、統計学的に有意な差があり(p=0.046)予防的な関連が観察されました(図2)。一方、閉経後女性ではそのような関連はみとめられませんでした。

図2.野菜・果物と全乳がんリスク(閉経前)


「アブラナ科野菜」の摂取量が高いほどホルモン依存性の乳がんになりにくい可能性

乳がん組織のホルモン受容体別でみると、アブラナ科野菜の摂取量が増えるほど、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性の乳がんのリスクが低いというた結果でした(相対リスク0.64:傾向性p=0.05)。

図3.野菜・果物と乳がんリスク(ホルモン受容体陽性乳がん) 


この研究は、日本人において「野菜・果物摂取量と乳がん発生との関連」を検討した最も大規模なコホート研究になります。今回の結果では、野菜・果物を総摂取量でみると関連はみとめられませんでしたが、日本人がよく食べている大根を含む「アブラナ科野菜」の摂取量と、閉経前女性の乳がん発生との間に予防的な関連が観察されました。


欧米の疫学研究を中心とする統合解析では、野菜の摂取量はホルモン受容体陰性の乳がんのリスク低下に関連するという結果が報告されており、今回の研究結果とは、必ずしも一致してはいません。しかし、日本と欧米では、摂取頻度の高い野菜の種類が異なるため、関連がみえにくくなっている可能性もあります。また、閉経前後やホルモン受容体別の検討では、解析対象者数が少なくなり、さらに解析を繰り返すことに伴う偶然性の可能性も否定できず、結果は慎重に判断する必要があります。したがって、特に「アブラナ科野菜」の摂取量と閉経前女性の乳がん発生の関連については、更なる研究結果の蓄積が必要といえます。

 

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