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現在までの成果

出産回数と歯の健康の関連について

―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病、歯の疾患などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。多目的コホート対象地域のうち、1990年に秋田県横手保健所管内にお住まいであった、40-59歳の男女約1万5,000人に対し、生活習慣などについてのアンケート調査にお答えいただきました。また、2005年には同じ対象者に歯科アンケート調査と歯科健診受診への協力をお願いしました(歯科研究)。

その結果、2006年1月までに男性706人、女性812人、合計1,518人が歯科研究に参加しました。歯科健診では、第三大臼歯(いわゆる親知らず)を除いて全部で28本の永久歯のうち何本残っているかなど、歯の健康状態について調査しました。その結果にもとづいて、出産回数と歯の健康との関連を調べ、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (BMJ Public Health 2013年13巻993ページ)

 

出産回数は歯の健康に影響する

今回の解析の対象者である1,211人(男性562人、女性649人)において、1990年の多目的コホート研究のアンケート結果から、女性の出産回数を、0回、1回、2回、3回、4回以上の5つのグループに分けました。各グループの割合は、0回が5.5%、1回が10.5%、2回が57.2%、3回が23.1%、4回以上が3.7%でした。出産回数と保健行動との関連では、出産回数が多いグループほど非喫煙率が高い傾向がみられました。

出産回数と歯の健康との関連を解析した結果、出産回数の多いグループほど、残っている永久歯の数が少なく、出産回数4回以上の女性では出産回数0または1回の女性に比べ約3本少ない結果となりました(図1)。また、奥歯のうち上下でかみ合っている永久歯のペア数(n-FTU)についても、出産回数の多いグループほど少なくなりました(図2)。男性においても、出産回数の代わりに子どもの数を用いて同様の分析をしましたが、このような関連はみられませんでした。歯を失う原因は、虫歯と歯周病がほとんどです。妊娠・出産のプロセスに伴いホルモンや口の中の細菌のバランスが変化し、免疫力が落ちることで、むし歯に罹りやすくなったり歯周組織の破壊が起こりやすくなったりし、妊娠毎にそれが繰り返されることで、歯の喪失に至るリスクが高まると考えられます。

図1 女性の出産回数と永久歯数(平均)

図2 女性の出産回数とn-FTU(平均)

研究結果について

今回の研究で、出産回数の多い女性では歯を失うリスクが高いことが示されました。この結果は、社会経済状況や健康習慣が影響しないように調整した後も変わりませんでした。また、奥歯のうち上下でかみ合っている永久歯のペア数(n-FTU)についても、出産回数の多いグループほど少なくなりました。 今回の研究では、未処置歯(DT)の本数には出産回数による違いがみられませんでした。これは日本が国民皆保険であり、誰もが比較的安価で歯科治療を受けることができるためだと考えられます。 得られた結果について注意すべき点として、健診を行った歯科医師内や歯科医師間の信頼性評価が行われていない点、また自主的に参加していただいた方が解析対象となっているために、日本人を代表するサンプルとなっていない点が挙げられます。

出産と歯の健康についての知識の普及を

今回の研究により、女性の出産回数が歯の健康に影響していることが示されました。その理由の一つとして、妊娠中の女性の半数以上は歯科治療を避ける傾向があり、しかも妊娠中に歯が悪くなることは仕方がないと考えていることがあります。しかし、妊娠中の歯の治療が胎児に悪影響を及ぼすという科学的根拠はありません。さらに、妊婦の多くは歯ぐきの出血が炎症のサインであり治療が必要であるという認識がありません。また、歯科医師も妊娠中に積極的に治療を行うよりも、出産後の治療を勧めがちです。しかしながら、妊娠中に歯の治療や予防を含めた管理を適切に行うことは、安全で効果的です。妊娠・出産による歯の健康の悪化を防ぐためには、妊婦に対し、妊娠中は歯の疾患の予防に積極的に取り組む必要があるという正しい知識を伝えることが必要です。

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