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多目的コホート研究(JPHC Study)

がんの診断と自殺および他の外因死との関連について

― 「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内にお住まいだった40~69歳の方々約13万人を2010年まで追跡した調査結果にもとづいて、がん診断と自殺および他の外因死との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Psycho-Oncology 2014年23巻1034-41ページ

 

がん診断から1年以内は自殺のリスクが高い

警察の自殺統計によると、わが国における自殺者数は1998年から2011年まで毎年3万人を超える状態が続いてきました。自殺の背景要因に精神疾患があることは良く知られていますが、身体疾患と自殺の関連についてはあまり分かっていません。また、他の外因死(不慮の事故など)についても(これらの中には死因が自殺であるかどうかの判断が極めて難しいケースが見受けられます)、自殺と同様に様々な心理社会的要因との関連が示唆されています。そこで、本研究では、がんの診断がその後の自殺および他の外因死に及ぼすリスクについて検討しました。 研究開始時点で行った調査に回答した方々のうち今回の解析の対象となった約10万3000人中、追跡期間中にがんの発生が確認されたグループでは、その後1年以内に13人が自殺により、16人がその他の外因により亡くなりました。また、診断から1年目以降の自殺は21人、外因死は32人でした。一方、がんになっていないグループでは527人が自殺により、707人がその他の外因により亡くなりました。解析の結果、がんになっていないグループに対する、がん診断から1年以内のグループにおける自殺および他の外因死のリスクはともに約20倍でした。一方、診断後1年以上経過したグループにおいては、自殺および他の外因死のリスクは1.0前後と、がんになっていないグループと違いがないほどに顕著に低下していました。また、がん診断後に自殺および他の外因で亡くなった方のみを対象とした分析においても、がん診断後1年以内の自殺および他の外因死のリスクが有意に高いことが示唆されました。

がん診断から1年以内は心理的ストレスなどが最も強い期間

先行研究では、がんと診断されることに起因する心理的ストレスは診断後1ヶ月~数か月以内で最も強いことが指摘されています。また、診断後1年以内はがんの発生やその治療に伴うライフスタイルの変化なども大きい時期と思われます。さらには、がんおよびその治療による認知・身体的機能や社会的機能の低下が考えられます。これらの要因により、がん診断後1年以内の自殺および他の外因死のリスクが高かったと考えられます。なお、がん診断後の自殺および他の外因死のリスクがほぼ同じであった理由としては、がん診断に起因する心理的ストレスやがん発生後の認知・身体・社会的機能の低下が自殺および他の外因死の共通の、かつ同程度の危険因子であるためと考えられます。

この研究について

今回の研究ではがん診断後に自殺もしくは他の外因により亡くなった方の数はそれぞれ数十名であり、その中でがん診断から1年以内に自殺もしくは他の外因により亡くなった方の数はさらに少なくなるため、がん診断後の自殺および他の外因死のリスクが不安定になり、その結果としてがん診断後1年以内の自殺および他の外因死のリスクが約20倍と高い値となった可能性が考えられます。また、がんの部位別の自殺および他の外因死のリスクなど、がんの属性別の詳細な分析は行っていません。 ただし、診断時点でのがんのステージ別の解析の結果、がんのステージごとの自殺および他の外因死のリスクに差はみられませんでした。がんのステージにかかわらず、がん診断後の自殺および他の外因死のリスク、特に診断から1年以内のリスクに留意することで、これらの死亡を予防していくことが重要と考えられます。

以上のような点に留意する必要はありますが、本研究の結果は、がん患者さんのケアに関わる医療従事者や家族など周囲の人々は、特にがん診断後1年以内においては、(1)自殺を含めた様々な外因死のリスクに留意する必要があること、(2)診断による心理的ストレス・抑うつ、がん罹患・治療による認知・身体・社会的機能の低下のアセスメントが重要であることを示唆するものと考えられます。

 

図1 がん診断からの期間別の多変量調整相対リスク

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