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多目的コホート研究(JPHC Study)

脳卒中と自殺および他の外因死との関連について

―「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告―

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった40~69歳の方々約11.7万人を2010年まで追跡した調査結果にもとづいて、脳卒中と自殺および他の外因死との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Psychosomatic Medicine 2014年6月WEB先行公開)。

 

脳卒中から5年以内は自殺や他の外因死のリスクが高い

警察の自殺統計によると、わが国における自殺者数は1998年に急増し、以後2011年まで毎年3万人を超える状態が続いてきました。自殺の背景要因にうつ病などの精神疾患があることは良く知られていますが、身体疾患と自殺の関連についてはあまり分かっていません。また、不慮の事故など、自殺以外の外因死の中には自殺かどうかの判断が極めて難しいケースが見受けられますが、これら自殺以外の外因死についても自殺と同様に心理社会的要因との関連が示唆されています。そこで、本研究では、脳卒中がその後の自殺および他の外因死に及ぼすリスクについて検討しました。 研究開始時点で行ったアンケート調査に回答した方々のうち今回の解析の対象となった約9万3000人中、追跡期間中に約4,800人が脳卒中を発症しました。追跡期間中に脳卒中の発症が確認されたグループでは、その後5年以内に17人が自殺により、34人がその他の外因により亡くなりました。また、脳卒中から5年目以降の自殺は5人、外因死は19人でした。一方、脳卒中になっていないグループでは490人が自殺により、675人がその他の外因により亡くなりました。 解析の結果、脳卒中になっていないグループに対する、脳卒中から5年以内のグループにおける自殺および他の外因死のリスクはともに約10倍でした。一方、脳卒中から5年以上経過したグループにおいては、自殺および他の外因死のリスクは脳卒中になっていないグループと統計学的な差がみられませんでした。また、脳卒中後に自殺および他の外因で亡くなった方のみを対象とした分析においても、脳卒中後5年以内の自殺および他の外因死のリスクが有意に高いことが示唆されました。

 

なぜ脳卒中から5年以内で自殺や他の外因死のリスクが高いか

先行研究では、脳卒中の発症後1年以内に、いわゆるうつ病のリスクが高まることが指摘されています。うつ病は、自殺の最大の危険因子のひとつです。また、うつ病などで抑うつ状態にあると、交通事故などの不慮の事故に遭いやすくなることが示唆されます。 また、脳卒中後には様々な身体的および認知的な障害が残ることが多いです。これらの障害により不自由な生活を強いられたり、仕事を続けられなくなったりする心理的ストレスは大きく、その結果自殺のリスクが高まると考えられます。このような心理的ストレスや脳卒中発症前後でのライフスタイルの変化は、特に発症直後の時期に大きいと思われます。さらには、脳卒中後の身体的および認知的な障害により、交通事故や高所からの転倒・転落などの不慮の事故で命を落とすリスクも高まると考えられます。 これらの背景により、本研究において、脳卒中の発症後5年以内の自殺および他の外因死のリスクが高かったと考えられます。なお、脳卒中後の自殺および他の外因死のリスクがほぼ同じであった理由としては、脳卒中後の抑うつや身体的および認知的な障害が自殺および他の外因死の共通の、かつ同程度の危険因子であるためと考えられます。

 

この研究について

今回の研究では脳卒中後に自殺もしくは他の外因により亡くなった方の数はそれぞれ数十名であり、その中で脳卒中から5年以内に自殺もしくは他の外因により亡くなった方の数はさらに少なくなります。さらに、脳卒中から5年以内のグループの人数および追跡期間は脳卒中になっていないグループと比較するとかなり少なく(短く)なります。よって、脳卒中後の自殺および他の外因死のリスクが不安定になり、脳卒中後5年以内の自殺および他の外因死のリスクが約10倍と高い値となった可能性が考えられます。この点を十分考慮したうえで本研究の結果を解釈する必要があります。研究のデザインなどが異なるため、海外の同様の研究と単純なリスクの比較は難しいことにも注意が必要です。また、今回の研究では、脳卒中の部位や重症度別の自殺および他の外因死のリスクなどの詳細な分析は行っていません。 なお、われわれはこれまでに、多目的コホート研究からの成果として、がん診断から1年以内は自殺および他の外因死のリスクが高いことを報告してきました(https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3399.html)。一方、今回の研究では、脳卒中から5年以内の自殺および他の外因死のリスクについて分析を行いました。その理由としては、(1)追跡期間中に脳卒中を発症した人数が、がんに罹患した人数と比較してかなり少ないため、脳卒中発症後1年以内のリスクを分析するのが統計学的に難しいこと、(2)先行研究で脳卒中発症から数年~5年以内のリスクが高いことが示唆されていること、が挙げられます。

以上のような点に留意する必要はありますが、本研究の結果は、特に脳卒中後5年以内においては、(1)脳卒中後のうつ病・抑うつ状態をきちんと把握すること、(2)脳卒中後のリハビリテーションにより身体的および認知的な障害の程度を小さくすることが、自殺および他の外因死の予防を考えるうえで重要であることを示唆するものと考えられます。

 図1. 脳卒中からの期間別の多変量調整相対リスク

 

 

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