トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >教育歴と身体的機能障害の関連
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

教育歴と身体的機能障害の関連

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成12年(2000年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4保健所(呼称2008年現在)管内にお住まいの50~69歳の男女約3万人の方々を対象にアンケート調査を実施した結果にもとづいて、教育歴と身体的機能障害の関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します。
(BMC Public Health 2009年5月 9巻131ページ)

身体機能障害有病率は教育歴によって異なるのか

社会経済的な格差が医療へのアクセスに影響を及ぼし、健康格差を生んでいるのではないかとの問題が指摘されています。欧米の疫学研究では、教育歴によって身体的機能障害の有病率に差が生じることが報告されています。日本においても、同様の問題が起こっている可能性が考えられますが、そのことに関する報告は限られています。

今回の研究では、1990年に行われたアンケート調査から、社会経済的な格差を表す指標の代用となる条件として教育歴を取り上げ、対象者を①中学卒業(全体の48%)、②高校卒業(同39%)、③専門学校・短大・大学など(同13%)、の3つのグループに分けました。また、2000年の調査より、身体的機能障害について、外出時に介助必要(全体の0.8%)、あるいは屋内生活に介助必要(同0.3%)のいずれかと答えた人の割合(有病率)を算出し、その教育歴による差について分析しました。

教育歴の低い群では身体的機能障害の有病率が高い

身体機能障害のうち屋内生活に介助が必要な人の割合については、短大・大学卒業グループと比べ、高校卒業グループでは約2.2倍、中学卒業グループでは4.8倍高いという結果でした。また、外出時に介助が必要な人の割合は中学卒業グループでは2.4倍高いという結果でした。 (図1)

図1.教育歴と身体的機能障害の関係

 
教育歴と身体的機能障害の関連は、脳卒中既往の有無にかかわらず存在する

この関連を脳卒中の既往歴別に調べると、脳卒中を発症したことがあってもなくても、同様の関連が観察されました。(図2)

図2.脳卒中既往別にみた教育歴と身体的機能障害の関係

 
脳卒中既往のない人では、脳卒中以外の原因(たとえば、骨折、認知症、関節疾患など)の有無が、教育歴によって異なることにより身体的機能障害の有病率が異なっている可能性が考えられます。

また、脳卒中既往歴のある人では、さらに脳卒中の病型、重症度、回復力、脳卒中の治療・リハビリテーションなどが教育歴によって異なることにより、身体的機能障害の有病率に差が生じている可能性が考えられます。

男女別に調べると、男性では、脳卒中既往の有無にかかわらず、教育歴と身体機能障害の有病率との関連がみられましたが、女性では、脳卒中既往者については明らかな差がみられませんでした。(図3)

図3.脳卒中既往者における教育歴と身体的機能障害の関係

 
男性の脳卒中既往者では、教育歴の低いグループの有配偶者割合は教育歴の高いグループと比べて低くなっています。これに対して、女性では教育歴による有配偶者割合の違いがみられませんでした。配偶者からの社会的な支えは脳卒中予後に重要であるという先行研究結果から考えると、男性脳卒中既往者の中で教育歴により配偶者からの社会的な支えに差が生じ、その結果、身体的機能障害の有病率に差がみられた可能性があります。そこで、婚姻状態による差が影響しないように考慮して検討しましたが、結果にそれほどの差は生じませんでした。除ききれなかった配偶者からの社会的な支えの影響、配偶者以外からの社会的な支えの有無や、発症しやすい脳卒中のタイプの違いなどから、この男女差が生じているのではないかと考えられます。

今回の結果から、日本においても、欧米と同様に、教育歴という社会経済的な格差を表す1つの条件によって、高齢者の身体的機能障害の有病率に差が存在することが示されました。社会的背景に留意した健康教育プログラムなどの提供、脳卒中治療・身体的機能回復時期における治療・リハビリ・社会的な支えなどへのアクセスを保障する対策などが必要と考えられます。

 

上に戻る