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現在までの成果

低炭水化物スコアと糖尿病との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果- 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2015年現在)管内にお住まいだった40~69歳の方々のうち、ベースラインおよび研究開始から5年後に行った調査時に糖尿病やがん、循環器疾患になっていなかった男女約6万名を、5年間追跡した調査結果にもとづいて、低炭水化物スコアと糖尿病発症との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(PLoS One 2015年2月19;10(2):e0118377)。

炭水化物、たんぱく質、脂質の三大栄養素は、例えば、炭水化物の摂取が多ければ、たんぱく質や脂質の摂取が少ないため、それぞれの栄養素について検討するよりも、3つの栄養素のバランスや食事全体として考える必要があります。そこで、アメリカのHaltonらが開発した炭水化物、たんぱく質、脂質の摂取量に基づき算出した『低炭水化物スコア』を用いて、糖尿病発症との関連を検討しました。

低炭水化物スコアの算出方法は、食事調査アンケートの結果を用いて、1日のエネルギー摂取量を推定し、その中で炭水化物、脂質、たんぱく質からのエネルギー摂取の割合をそれぞれ計算しました。次に、炭水化物からのエネルギー摂取の割合が高いほど小さな得点を与え(10点から0点)、脂質とたんぱく質は多いほど高い得点を与え(0点から10点)、それらを合計して低炭水化物スコアとしました。 

女性で低炭水化物スコアが高いほど糖尿病発症のリスクが低下

研究開始から5年後に行ったアンケート調査の結果を用いて、三大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)の摂取量により、低炭水化物スコアを算出しました。このスコアを5つのグループに分類し、その後5年間の糖尿病発症(男性691人、女性500人)との関連を調べました。糖尿病の発症は、研究開始10年後に行った自記式調査で、上記追跡期間内に糖尿病と診断されたことがある場合としました。  

その結果、女性では低炭水化物スコアが高い(炭水化物の摂取が少なく、たんぱく質および脂質の摂取が多い)ほど糖尿病発症のリスクが低下する傾向が認められ、スコアが最も低い群に比べ最も高い群では糖尿病のリスクが約4割低下していました(図1)。一方、男性では低炭水化物スコアと糖尿病発症との関連はみられませんでした。

 

低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病リスクが低下  

次に、たんぱく質および脂質を動物性由来または植物性由来に分けて低炭水化物スコアを算出し分析したところ、女性において、低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病のリスクが低下していました(図2)。低炭水化物/高植物性たんぱく質・脂質スコアは、統計学的に有意ではありませんが、男女ともこのスコアが高くなるほど糖尿病のリスクが低くなる傾向がみられました。

概要版217図2

 

 今回の研究では、女性において、低炭水化物スコアが高いほど糖尿病発症のリスクが低下するという結果が得られました。この関連は、食事のGL(グリセミック負荷:食事の中で摂取される炭水化物の質と量を示す指標)を調整することで弱まったことから、炭水化物の質や量が重要であると考えられます。これまでに、低炭水化物スコアと糖尿病発症との関連を検討した前向き研究は欧米の2研究のみですが、一致した結果は得られていません。その理由としては、炭水化物の摂取量や供給源が日本人と欧米人で異なることが考えられます。日本人は、GI(グリセミック指数:炭水化物の食後血糖値の上昇能を示す指標)が高い白米の摂取が多いため、食事のGLが高い傾向にあります。米飯や食事のGLは糖尿病発症との関連が報告されていることから、本研究では低炭水化物スコアが高い(炭水化物、あるいは白米の摂取が少ない)群ほど糖尿病リスクが低下したと考えられます。  

本研究では、女性で、低炭水化物/高動物性たんぱく質・脂質スコアが高いほど糖尿病のリスクが低下していましたが、これは魚の摂取によるものかもしれません。魚や魚に豊富に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸やビタミンDは糖尿病のリスク低下との関連が報告されています。また、男女ともに統計学的に有意な結果ではありませんが、低炭水化物/高植物性たんぱく質・脂質スコアで糖尿病のリスクが低くなる傾向がみられたことは、植物性食品に豊富なαリノレン酸やリノール酸摂取による糖代謝への好ましい効果が考えられます。しかしながら、前者のスコアは欧米の研究とは異なる結果、低炭水化物スコアと糖尿病との関連については研究が少ないことから、さらなる検討が必要です。

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