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多目的コホート研究(JPHC Study)

総コレステロール値とがん発生リスクとの関連

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、様々な生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成 2年(1990年)および平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2006年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約3万人の方々を平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、総コレステロール値とがん発生との関連を調べた結果を海外学術雑誌に発表しましたのでご紹介します。
(International Journal of Cancer 2009年 125巻2679-2686ページ)

血中の総コレステロールが低いこと(総コレステロール低値)と、がん死亡との関係については、これまで多くの先行研究で報告されています。これは、主に、がんの発生、特に大腸がんや進行がんの進展にともなって、総コレステロール値が低下するためと考えられています。

また、総コレステロールの低値と関係する免疫機能の低下が、がん発生のリスクを上げる可能性も指摘されています。反対に、総コレステロールの低値はがん細胞の増殖を抑え、さらに細胞の分化を促進させて、がんの発生リスクを下げるとも考えられています。しかしながら、総コレステロール値とがん発生に関する研究は乏しく、これまでそのエビデンスは不十分でした。

多目的コホート研究では、参加者の約3割から、研究開始時の総コレステロール値のデータを得ています。そこで、このデータをもとに、総コレステロール値によって、4.14mmol/L未満(160 mg/dl未満)、4.15-4.64(160-179 )、4.65-5.16(180-199)、5.17-5.68(200-219)、5.69-6.20(220-239)、6.21以上(240 以上)の6つのグループに分けて、その後のがん発生の相対危険度(総コレステロール値4.65-5.16mmol/Lのグループのリスクを1としたときのハザード比)及びその傾向(総コレステロール値1SD<男性0.89 mmol/L=34.6 mg/dl、女性0.91 mmol/L=35.2 mg/dl>増加あたりのハザード比)について解析を行いました。

今回の研究対象に該当した男女33,368人(男性11,683人、女性21,685人)のうち、平均で約12年半の追跡期間中、2,728人(男性1,434人、女性1,294人)に、何らかのがんが発生しました。部位別には、胃がんが557人、大腸がんが 506人、肺がんが320人、乳がんが178人 、前立腺がんが164人 、肝がんが125人、子宮頸がんが55人、白血病が50人でした。

総コレステロール値と全がんの発生リスクとの関係は全搬的に弱い


血中の総コレステロールの低値と全がんの発生との関連は男性においてのみ認められました。研究開始3年以内に発生したがん及び進行がんを除いたところ、この関連は弱くなりました。

ちなみに、冠動脈疾患のリスクについては、総コレステロール値の標準偏差が1上昇するごとに、男性で34%、女性で22%ずつ増加する傾向が確認されました。

総コレステロール低値は男女の肝がん、男性の胃がんリスクと関係する


臓器別に見ると、総コレステロール低値とがん発生との関連は、男女の肝がん、男性の胃がんで強く認められました。さらに開始3年以内に発生したがん及び進行がんを除いたところ、胃がんとの関連は弱くなりましたが、肝がんとの関連はほとんど変わりありませんでした。(図1,2)。一方、男性の前立腺がんでは、総コレステロール値が高いほど発生リスクの上昇が見られました。この関連は進行がんを除いたところ弱くなりました。

図1.総コレステロールとがんリスク(男性)

図2.総コレステロールとがんリスク(女性)

総コレステロール低値とがん発生との関係-原因か結果か?


男女の肝がんと男性の胃がんを除いて、血中の総コレステロール値とがんの発生との間に関連は見られませんでした。

総コレステロールの低値と胃がんとの関連は、研究開始3年以内に発生したがん及び進行がんを除くと弱くなることから、がんによる結果として総コレステロールが低下していた部分があると考えられます。

一方、総コレステロールの低値と肝がんとの関連は、開始3年以内に発生したがんや進行がんを除いても、さらにはウイルスへの感染や飲酒習慣を考慮しても認められました。

肝がんに先行して起こる肝硬変や、それ以前の長期にわたる慢性C型肝炎では、ウイルス感染が血清コレステロールの低下をもたらすことが知られ、その影響が残っている可能性が考えられます。逆に、コレステロール低値によって、C型肝炎ウイルスが肝細胞のLDLレセプターや酸化LDLレセプターの親和性を増した結果、持続的な肝炎をひき起こし易くなる可能性も考えられます。

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