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多目的コホート研究(JPHC Study)

魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量と乳がんとの関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、新潟県長岡、茨城県水戸、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内にお住まいだった方々のうち、平成7年(1995年)と平成10年(1998年)にアンケート調査に回答していただいた45〜74歳の女性約3万8千人を平成23年(2011年)まで追跡した調査結果に基づいて、魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量と乳がん罹患との関連を調べました。その研究結果を専門誌に論文発表しましたので紹介します(International Journal of Cancer 2015年137巻2915-2926ページ)。

乳がんは、女性における罹患率が世界的に最も高いがんであり、日本人女性の乳がん罹患率は増加傾向にあります。乳がんの発生には、女性ホルモン関連のメカニズムが深く関わっていることが知られていますが、食事との関連については良く分かっていません。青みの魚に多く含まれるn-3不飽和脂肪酸は、特定のがん細胞の増殖を抑制する効果があるとされる一方で、n-6不飽和脂肪酸は、がん細胞増殖を促進させる可能性があることが示唆されています。日本人を対象とした先行研究は少なく、欧米の疫学研究からも一致した結果が得られていない状況です。そこで本研究では、魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量と乳がんとの関連について検討しました。

 

研究方法の概要

今回の研究の対象である38,234人を、2011年末まで約14年追跡したところ、556人が乳がんと診断されました。5年後調査のアンケート結果に基づいた魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸の摂取量を4つのグループに分け、グループ間での乳がん罹患リスクを比較しました。

 

乳がん全体でみると、魚・n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量との関連はみられない

分析にあたり、初潮年齢、出産回数、喫煙、飲酒状況など、乳がんに関連する他の要因のグループ間の差が結果に影響しないよう配慮しました。その結果、魚、n-3(EPA1, DHA2, DPA3, ALAを含む)及びn-6不飽和脂肪酸の摂取量と乳がん全体のリスクとの関連はみられませんでした。非喫煙者に限った解析や閉経状況別の解析でも、統計学的に有意な関連はみられませんでした。

 

1 EPA:エイコサペンタエン酸、2 DHA:ドコサヘキサエン酸、3 DPA:ドコサペンタエン酸、4 ALA:アルファリノレン酸

 

「n-6不飽和脂肪酸」の摂取量が多いほど、ホルモン依存性の乳がんリスクが高くなりやすい

乳がんのリスクは、乳がん組織がホルモン依存性(ホルモン受容体陽性)か否かによって異なることが指摘されています。ホルモン受容体の有無別にみると、n-6不飽和脂肪酸の摂取量が最も少ないグループに比べ、最も高いグループにおいては、ホルモン受容体陽性(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性)乳がんのリスクが2.94倍高くなりました (傾向性p=0.02)。一方、EPA、DHA、DPAについては、摂取量が多い群においてホルモン受容体陽性乳がんリスクが低い傾向がみられました。

 

221図1

図1 魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸と乳がんリスク(ホルモン受容体陽性乳がん)

 

この研究について

今回の研究は、日本人における魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量とホルモン受容体別乳がん罹患との関連を検討した、初めての大規模なコホート研究になります。今回の結果では、魚、n-3及びn-6不飽和脂肪酸摂取量と乳がん全体のリスクと関連はみられませんでしたが、これは欧米・中国での先行研究の結果と一致しました。一方、n-6不飽和脂肪酸の高摂取はホルモン受容体陽性乳がんのリスクをあげる可能性がみられました。これに関する研究は国内外からもまだ少なく、今後さらなる研究結果の蓄積が必要です。

 

 

 

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