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多目的コホート研究(JPHC Study)

飲酒と乳がん罹患との関係について

「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993)年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内にお住まいだった、40~69歳の女性約5万人の方々を対象に、生活習慣についてのアンケート調査にお答えいただきました。その後平成18年(2006年)まで追跡した調査結果に基づいて、飲酒と乳がん発生との関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(International Journal of Cancer 2010年127巻685-695ページ)。

エタノ-ル摂取量が多いほど、乳がんになりやすい

平均約13年間の追跡期間中に、572人に乳がんの発生を確認しました。
研究開始時、その5年後、10年後に実施した計3回のアンケート調査への回答から、対象者を「過去に飲んでいた」、「飲んだことがない」、「時々飲む(月に1-3日)」、「週にエタノール換算で150g以下の飲酒」、「週にエタノール換算で150gより多い飲酒」の5つのグループに分けて、乳がんの発生率を比べてみました。
飲酒量が多い、つまり「エタノ-ル換算で週150gより多く飲酒」するグル-プでは、「飲んだことがない」グル-プに比べて、乳がんリスクが1.75倍(約75%)高いことがわかりました(図1)。エタノール換算で150gに相当する飲酒量は、日本酒なら約7合、ビールなら大瓶約7本、ワインなら約14杯(1杯100ml)、ウイスキーならダブル約7杯です。

図.飲酒習慣と乳がん罹患

また、「過去に飲んでいた」グループも「飲んだことがない」グループに比べて、リスクが上昇していました。しかし、これは、飲むのをやめたためにリスクが上昇したというよりは、むしろ、乳がんなどで健康状況がおもわしくなくなった結果、飲酒をやめた人がこのグループに含まれる影響が現れたのではないかと考えられます。
尚、分析にあたっては、乳がんに関連する飲酒以外の要因(年齢、体重、喫煙、初潮年齢、妊娠回数、閉経年齢など)が結果に影響しないよう考慮しました。

閉経前でも閉経後でも、飲酒がリスクに

対象者を閉経前と閉経後に分けて調べたところ、閉経前では、飲んだことのないグループと比べて、飲酒量の最も多いグループで1.78倍の乳がんリスク上昇が統計的有意に認められました。閉経後では、グループごとのリスクの高さは明確ではありませんでしたが、飲酒量が増えるにつれて統計学的に有意なリスク上昇の傾向が認められました。
また、「過体重」、「飲酒による赤くなる傾向」、「喫煙」、「葉酸摂取」、「イソフラボン摂取」などの状況でグループ別に分けてみても結果に違いは認められませんでした。
今回の研究では、対象集団に大量に飲酒する女性が少なく、また、「ときどき飲酒する」グループでは具体的な飲酒量のデータが得られず一括りになっているため、飲酒量の増加にともなう乳がんリスク上昇がわかりにくくなっているかもしれません。それでも、今回の結果から、日本人女性において飲酒による乳がんリスクが高くなる可能性が示されました。

アルコール摂取で乳がんリスクが上昇する理由

飲酒と乳がんリスクの関連は、動物実験や、主に欧米の疫学研究で、すでに数多く発表され、国際的な評価では飲酒が乳がんリスクを高めるのは確実とされています。
生物学的機序として、お酒に含まれているエタノールが分解されてできるアセトアルデヒドがもつ発がん性、アセトアルデヒドによるDNA合成・修復に必要とされている葉酸の破壊、また、アルコールによる乳がんリスク要因である女性ホルモンなどへ影響、などの可能性があげられますが、はっきりとわかっておらず今後の研究が必要とされています。

乳がんを予防するためにも、節度ある飲酒を

今回の前向き追跡研究の結果、欧米とは、酒の種類、量、遺伝的背景、環境要因などが異なる日本人においても、飲酒する人はしない人にくらべ、乳がんになりやすいということが、改めて裏付けられました。
国際的評価と同様、日本人においても、お酒を飲みすぎないことが乳がん予防につながるのは確かなようです。

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