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多目的コホート研究(JPHC Study)

朝食の欠食と脳卒中との関連について

—「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果報告—

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。

これまでに、朝食を欠食すると脳卒中・虚血性心疾患のリスク因子である肥満、高血圧、脂質異常症、および糖尿病のリスクが上がることは多くの研究で示されてきました。しかしながら、朝食の欠食が結果的に脳卒中および虚血性心疾患のリスクを上げるのかという点に関してはほとんど研究されておらず、特に脳卒中に関する研究は今までありませんでした。そこで、朝食欠食と脳卒中および虚血性心疾患との関係を検討することを今回の研究の目的としました。

今回の分析の対象者は、平成7年(1995年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成10年(1998年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2015年現在)管内にお住まいだった45~74歳の男女のうち、循環器疾患およびがんの既往がなく、アンケートの朝食に関する項目に回答していただいた82,772人(男性38,676人、女性44,096人)です。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Stroke 2016年47巻477-481ページ)。

 

一週間あたりの朝食摂取回数が少ないと脳出血のリスクが高くなる

研究開始時に実施したアンケートの一週間あたりの朝食摂取回数に関する質問項目への回答から、週に0〜2回、週に3〜4回、週に5〜6回および毎日という4つの群に分けて、その後の脳卒中および虚血性心疾患発症との関連を分析しました。平成22年(2010年)まで追跡した結果、3,772人の脳卒中発症と870人の虚血性心疾患発症を確認しました。

朝食を毎日摂取する群と比較して、朝食を週に0〜2回摂取する群の発症リスクは、脳卒中と虚血性心疾患を合わせた循環器疾患で14%、脳卒中全体で18%、脳出血で36%高くなっていました。しかし、くも膜下出血、脳梗塞および虚血性心疾患については、朝食の回数との関連は見られませんでした。  

 

さらに、朝の血圧が高く頭痛やめまいなどで体調がすぐれない(脳卒中のリスクが高まっている状態)ために朝食が摂取できない方のいた可能性(因果関係の逆転)を考慮して、研究開始から5年以内に循環器疾患を発症した人を除外して検討しましたが、結果は上記と同様でした。

 

この研究結果について

本研究は、世界で初めて朝食欠食により脳出血のリスクが上昇する可能性を示したコホート研究です。これまで朝食をとることの重要性が様々な報告で指摘されてきましたが、今回の結果はそれを支持するものとなります。

脳出血の最も重要なリスク因子は高血圧で、特に、早朝の血圧上昇が重要なリスク因子であると考えられています。また、朝食を欠食すると空腹によるストレスなどから血圧が上昇することが報告されています。逆に朝食を摂取すると血圧上昇を抑えられることも報告されています。これらの報告から、朝食を欠食することで朝の血圧が上昇し、毎日朝食を摂取する人に比べて脳出血のリスクが高くなっていた可能性が考えられます。一方で、その他の循環器疾患にとっても高血圧は重要なリスク因子ですが、朝食欠食とくも膜下出血、脳梗塞および虚血性心疾患との関連は見られませんでした。この理由として、くも膜下出血および虚血性心疾患に関しては、統計学的に関係を検討できるほどの症例数がなかったこと(特に虚血性心疾患の発症率は欧米に比べて非常に少ないのが日本人の特徴です)、脳梗塞に関しては、症例数は多かったが早朝の血圧上昇は脳出血ほど重要な因子ではないことが可能性として考えられます。

本研究の限界として、朝食摂取回数に関する情報は研究開始時のみをもとにしているので、追跡期間中に摂取回数が変わった人がいて、それが結果に何らかの影響をおよぼしている可能性は否定できません。また、一般的に、朝食を毎日とる人は欠食する人に比べて健康的な生活習慣を送る人が多いと考えられます。本研究では統計学的に朝食欠食と循環器疾患との関係を分析する上で様々な生活習慣因子で調整しましたが、未調整の生活習慣因子が本研究結果に影響をおよぼした可能性も否定できません。

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