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多目的コホート研究(JPHC Study)

カルシウムとビタミンD摂取量と糖尿病との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を 行っています。平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県 中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった40~59歳の男女約6万人の方々を5年間追跡した調査結果に もとづいて、ビタミンD、カルシウム及び乳製品の摂取量と糖尿病発症との関連を調べた結果を国際専門誌に発表しましたのでご紹介します。 (Diabetologia 2009年11月52巻2542-2550ページ)

今回の研究では、研究開始から5年後に実施した食事調査を含む生活習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、カルシウム、ビタミンDおよ び乳製品の1日当たりの摂取量を算出しました。それぞれの摂取量毎に2~4つのグループ分けを行い、その後の糖尿病発症リスクとの関連を調べました。ま た、ビタミンD摂取量が多い人、少ない人の群の2つに分け、群毎のカルシウム摂取量と糖尿病の発症との関連を調べました。

カルシウムおよび乳製品摂取量と糖尿病発症との関連

追跡期間中に男性634人、女性480人、合計1,114人が新たに糖尿病を発症したと回答しました。乳製品の摂取量(50g未満、50-150g 未満、150-300g未満、300g以上)により4つのグループに分類し、その後の糖尿病発症のリスクを男女別に、検討しました。分析にあたって、年 齢、喫煙状況、エタノール摂取量、糖尿病の家族歴、肥満など、糖尿病発症に関係するその他の影響をできるだけ取り除きました、その結果、女性において乳製 品の摂取量がもっとも高いグループでは最も低いグループに比べて糖尿病発症のリスクが約30%低くなることがわかりました(図1)。また、カルシウムの摂 取量が最も高いグループでは、最も低いグループと比べてリスクが約24%低くなる傾向が見られましたが、統計学的に有意な関連ではありません。一方、男性 では、カルシウム及び乳製品いずれの摂取量も糖尿病発症との間に関連を認めませんでした。

図1 乳製品摂取と糖尿病リスク

ビタミンD摂取量別にみたカルシウム摂取量と糖尿病発症との関連

ビタミンD摂取量と糖尿病発症のリスクには、男女ともに統計学的に有意な関連は見られませんでした。しかし、ビタミンDの摂取量が平均よりも多い群 と少ない群に分けて、カルシウム摂取量と糖尿病発症のリスクとの関連を調べたところ、男女共にビタミンD摂取量が多い群においてのみ、カルシウム摂取量が 高いと糖尿病のリスクが低くなるという関連が明らかになりました(図2)。

図2. ビタミンD摂取量別、カルシウム摂取量と糖尿病発症のリスク

ビタミンDとカルシウム摂取が糖尿病発症を予防するメカニズム

ビタミンD及びカルシウム摂取量と糖尿病予防のメカニズムの詳細はよくわかっておりません。しかしビタミンDは、すい臓のβ細胞に直接作用してイン スリン分泌に関与していること、カルシウムは細胞内のインスリンのシグナル伝達に関与していることが報告されています。これらが不足するとインスリン感受 性が低下するという報告もあることから、両者が糖尿病の発症に関連している可能性が考えられます。加えてビタミンDは、カルシウムの吸収に関与しているこ とから、2つの栄養素が高い群で相乗効果となり、糖尿病のリスクが低くなったと考えられます。

本研究の結果では、女性のみにおいて、乳製品と糖尿病との間に関連が認められました。その理由の1つとして、女性では乳製品の摂取量が全体的に高 かったのに対し、男性では低く、リスクを低減するのに充分な量ではなかった可能性が考えられます。一方のビタミンDは、日光(紫外線)にあたることにより 皮膚でつくられることから、男女共に食事からの摂取量のみでは体内の全てのビタミンD量を反映できなかったことが考えられます。

研究結果から

今回の研究結果から、ビタミンDとカルシウムの摂取により、糖尿病の発症のリスクを低減させ得ることが、日本人の追跡調査において初めて示されまし た。一般的に日本人の食事にはカルシウムが不足しており、その摂取量を増加することにより、糖尿病を予防する可能性が考えられます。しかし研究の限界とし て、結果に影響すると考えられる家族歴、肥満、飲酒、運動、高血圧、カロリー量などを考慮して解析しましたが、他の未知の要因、または健康的生活習慣など により予防的にみえる可能性も考慮しなければいけません。加えて、カルシウムやビタミンDのサプリメントについては検討されていないため、その摂取による 予防の効果はわかりません。今後の研究から、糖尿病を予防する食生活がより明らかになることが期待されます。

今回の研究で、全対象者に実施された食物摂取頻度アンケート調査から、各グループの摂取量(中央値)を算出すると、カルシウムについてみると男では 最も少ないグループは1日当たり254 mg、最も多いグループは629 mg、また、女ではそれぞれ356 mgと810 mgでした。しかしながら、対象者の一部に実施した食事記録調査の結果と照らし合わせると、食物摂取頻度アンケート調査から計算されるカルシウム摂取量は 実際の摂取量を最小で3%低く、最大で17%多く見積もっています。上記の値を解釈する際には留意ください。多目的コホート研究などで用いられる食物摂取 頻度アンケート調査は、摂取量による相対的なグループ分けには適していますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しく、また年齢や時代・居住 地域などが限定された対象集団の値を一般化することは適当とは言えませんので、ここに示した摂取量はあくまで参考値にすぎません。

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