多目的コホート研究(JPHC Study)
喫煙開始年齢とがん発生率との関連について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった方々のうち、がんの既往がなく、喫煙経験のある40~69歳の男女約4万人を、平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、喫煙開始年齢とがん発生率との関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol. 2010年 20巻 128-135ページ)。
喫煙はがんの確実なリスク要因であり、これまでに、喫煙期間が長いほど、喫煙本数が多いほど、生涯の喫煙量(喫煙年数と本数の積)が多いほど、肺がん発生リスクが高いことが報告されてきました。一方で、喫煙開始年齢が若いこと自体が肺がんのリスクであるとする報告もあります。しかしながら、未成年期に喫煙を開始した場合とそれ以降に開始した場合の肺がん発生リスクについて、喫煙期間の影響なのか、未成年期に喫煙すること自体の影響なのか、未成年期の年齢に焦点を当てた検討はほとんどありませんでした。
17歳以下の喫煙開始は20歳以降の喫煙開始と比べて肺がんの罹患率が増加
平均約14年間の追跡期間中に、4386人に何らかのがんの発生を、681人に肺がんの発生を確認しました。
研究開始時、ほとんどの喫煙者が20歳以降に喫煙したと回答していますが、男性の28%、女性の8%は未成年期に喫煙を開始したと回答していました。未成年期に喫煙を開始した喫煙者の方が1日当たりの喫煙本数が多く喫煙期間も長いという特徴がありました。
喫煙開始年齢が20歳以降、18-19歳、17歳以下の3つのグループに分けて肺がんの発生率を比べてみました。17歳以下で喫煙を開始したグループでは20歳以降で喫煙を開始したグループに比べて、肺がんリスクが男性は1.48倍、女性は8.07倍高いことが分かりました(図1)。これは喫煙本数の影響を除いても同様な結果でした。
調査時の年齢、喫煙開始年齢、喫煙期間は、3つのうち2つが決まると残りの一つは自動的に決まるため、喫煙開始年齢の発がんリスクを、喫煙期間や調査時点の年齢の影響を調整して評価することは非常に困難です。そこで、男性喫煙者の肺がんの罹患率を調査時の年齢を40歳代、50歳代、60歳代に分けて、それぞれ喫煙開始年齢ごとに求めてみました。調査時点の年齢が高いほど(喫煙期間が長いため)、肺がん罹患率は高いことが示されました。また50歳代では喫煙開始年齢が若いほど肺がん罹患率が高いことも示されました(図2)。
しかしながら、前述の検討では、喫煙年数の影響を、同時に考慮できないという限界がありました。
このため、早期喫煙開始者では喫煙開始年齢が早いことによる喫煙年数の伸びから予想される以上に肺がん罹患率が高くなるかを検討するために、数学モデルを用いて仮想的に同年齢、同喫煙期間での予測累積罹患率について喫煙開始年齢ごとに推定しましたが、開始年齢と累積罹患率の間に明らかな量-反応関係は見られませんでした。
喫煙開始しないこと、禁煙することが最も重要
今回の研究では、未成年での喫煙開始そのものが、喫煙期間の延びによる影響とは独立して肺がん罹患リスクを高めるかどうかについての明らかな根拠は得られませんでした。しかし、未成年期での喫煙は喫煙期間の長さや喫煙量と関連して肺がんリスクを高めていることが確認され、特に若い年齢での肺がん罹患リスクを高めている可能性が示唆されました。
がん予防のためには、何歳であっても喫煙開始しないこと、そして、喫煙している人は直ちに禁煙することが最も重要です。