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多目的コホート研究(JPHC Study)

飲酒とリンパ系腫瘍の発生との関係について

-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県柏崎、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいの方々に、アンケート調査の回答をお願いしました。そのうち、40~69歳の男女約96,000人について、その後平成18年(2006年)まで追跡した調査結果に基づいて、飲酒と悪性リンパ腫・形質細胞性骨髄腫の発生率との関係について調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので、紹介します(Cancer Epidemiol Biomark Prev 2010年19巻429-434ページ

飲酒と悪性リンパ腫(ML)・形質細胞性骨髄腫(PCM)

飲酒によりリンパ腫のリスクが増加するかどうかについて、すでに欧米でいくつかの症例対照研究が行われています。その多くで飲酒量が多いとMLのリスクが低いことが示されていますが、PCMのリスクについては一致していません。アジアでは欧米に比べてMLやPCMが少なく、リンパ系腫瘍の中でも頻度の高いタイプが異なります。日本人集団に関しては、症例対照研究によりMLに関して同様な関連が報告されていますが、前向き研究での評価はなされていませんでした。そこで、多目的コホート研究で、飲酒とML・PCMとの関連についての検討をおこないました。

飲酒で非ホジキンリンパ腫のリスクが低く

調査開始時のアンケート調査で、飲酒習慣の項目についての回答を基にして、「飲まない(月に1回未満)」グループ、「時々飲む(月に1-3回)」グループ、さらにそれ以上飲むグループをアルコール量によって3つのグループに分け、合計5つの飲酒状況グループでその後のML、PCMの発生率を比較してみました。男性では、それ以上のグループが7割を占めましたが、女性では飲まないグループが8割を占めました。
平均で約13.6年の追跡期間中に、ML257人(うち非ホジキンリンパ腫188人)、PCM89人が確認されました。年齢、居住地域、性別、喫煙状況と肥満指数の偏りが結果に影響しないように考慮して、飲酒との関連を検討しました。

MLとPCMを合わせたリンパ性系腫瘍発生のリスクは、時々飲むグループと比べ、アルコール摂取量が多いグループでリスクが低くなりました。MLとPCMに分けると、どちらのリスクも、統計学的有意ではないものの、低下する傾向が見られました。ただ、MLのうち非ホジキンリンパ腫(188人)だけを取り出すと、時々飲むグループと比べ、最も多い(週当たりの摂取量がエタノール換算300g以上)グループのリスクが0.47倍と低くなりました(図1)。
なお、エタノール換算300gは日本酒にすると約14合、焼酎にすると8合、泡盛で7合、ビールで大ビン14本、ワインでグラス28杯、ウイスキーダブルで14杯です。

図1.飲酒とリンパ系腫瘍リスク

飲酒で顔が赤くならない人で、飲酒によるリンパ系腫瘍のリスクが低く

日本には、欧米に比べて飲酒で顔が赤くなる人が多いことが知られています。そこで、飲酒で顔が赤くならないグループと赤くなるグループに分け、リンパ性系腫瘍発生のリスクを比べてみました。すると、赤くならないグループでは飲酒量が増えるとリスクが低下し、時々飲むグループと比べ、最も多い(週当たりの摂取量がエタノール換算300g以上)グループのリスクが0.47倍と低くなりました。一方、顔が赤くなるグループでは、飲酒量が増えてもリスクは変わりませんでした。

図2.飲酒とリンパ系腫瘍リスク(飲酒で顔が赤くなるかならないかによってわけた場合)

考えられるメカニズム

この研究からは、飲酒によってリンパ系腫瘍のリスクが低くなる可能性が示されました。その程度は、欧米で示された結果に比べ、より大きいようでした。飲酒によるリンパ腫抑制作用のメカニズムとしては、適度なアルコール摂取により免疫反応やインスリン感受性が改善されることなどが知られています。今回の研究では、かなり摂取量が多いグループでリスクの低下が見られましたので、それらとは別のメカニズムが働いているとも考えられます。また、欧米人に比べ、もともと日本人ではリンパ腫を抑える免疫力が遺伝的に強く、飲酒がその作用をさらに強めているとも考えられます。

顔が赤くならない人でだけ飲酒によってリンパ腫のリスクが低くなったことからは、アセトアルデヒドの血中濃度が高いと予防効果が薄まるのではないかという筋書きも考えられます。この点については、アセトアルデヒド分解酵素に関わる遺伝子型による分類などを行い、さらに詳しく調べる必要があります。

この研究について

今回の研究結果は、飲酒のリンパ系腫瘍予防効果を示唆するものですが、大量飲酒は他のがんのリスクを高めることが明らかです。生活習慣病を総合的に予防しようと考えると、お酒は日本酒換算で一日1合(ビールなら大びん1本、ワインならグラス2杯)程度までに控えておいた方がよいといえるでしょう。

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