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多目的コホート研究(JPHC Study)

日本人における身体活動と循環器疾患との関係

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成12年(2000年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成15年(2003年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、9保健所(呼称は2015年現在)管内にお住まいだった50~79歳のうち、循環器疾患およびがんの既往がなく、身体活動に関するアンケートに回答していただいた74,913人(男性34,875人、女性40,038人)を平成24年(2012年)まで追跡した結果にもとづいて、身体活動と循環器疾患の関連性を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Circulation. 2017)。

身体活動を多くすることにより、肥満、高血圧、脂質異常症、および糖尿病を予防でき、さらには、直接動脈硬化を予防することで、結果的に脳卒中・冠動脈疾患(心筋梗塞及び心臓突然死)などの循環器疾患を予防できることが多くの研究により証明されています。しかしながら、これらの研究は主に欧米からの報告で、生活習慣や遺伝的にも異なるアジア人に関する報告は限定的でした。日本人などのアジア人は、欧米人に比べて脳卒中が多く(欧米人は冠動脈疾患が多い)、アジア人にとって循環器疾患を予防するために、どの程度の身体活動量が必要かを欧米からの報告のみで判断することは難しいと考えられます。そこで、日本人にとってどの程度の身体活動量が循環器疾患予防に理想的か(例えば、身体活動量を多くすればするほどいいのか、それともある程度あれば十分なのかなど)を検討しました。

 

一日身体活動量と循環器疾患との関連

 

研究開始時に仕事や余暇中の身体活動に関する質問への回答から、「座っている」「立っている」時間以外の、一日の身体活動量(単位はメッツ-時間で表されます)を計算しました。平成24年(2012年)まで追跡した結果、3,345人の循環器疾患発症(脳卒中2,738人、冠動脈疾患607人)を確認しました。身体活動量と循環器疾患のリスクとの関係を図に示しています。身体活動量が0-5メッツ-時間から急激にリスクが約30%程度低下し、5〜10メッツ-時間あたりでリスク低下が穏やかになり、その後リスクの低下が維持されていることがわかります。全脳卒中、冠動脈疾患も同様の結果を示しました。

 

(調整は、性、年齢、喫煙状況、アルコール量、両親の循環器疾患既往、座っている時間、睡眠時間で行った)

 

この研究結果について

本研究では循環器疾患の80%以上が脳卒中でした。したがって、日本人にとって、脳卒中を予防することが循環器疾患全体を予防するうえで非常に重要であることがわかります。
身体活動量が増えれば増えるほど循環器疾患のリスクが低下し続けるというわけではなく、ある程度まで身体活動量が増えれば十分なリスク低下が得られるという結果でした。本研究では、1日あたり5〜10メッツ-時間で最大のリスク低下が得られました。これは歩行2〜4時間程度、ジョギング1〜2時間程度に相当します。これらを毎日することは難しいかもしれませんが、たとえこのレベルの身体活動量に達しなくても循環器疾患のリスクは低下しているので、少しでも活動することは有益だと考えられます。また、本研究では、活動しすぎても有害になりうるという結果はみられなかったので、日頃からしっかり活動(1日5〜10メッツ-時間以上の身体活動量)をしている人に1日5〜10メッツ-時間程度までに身体活動を控えるように勧めているのではありません。ただし、その他の疾患を対象とした場合、過剰な身体活動がどのように影響するのかは現時点では不明ですので、この点はさらに研究を進める必要があります。
本研究の限界として、身体活動量に関する情報は研究開始時のみをもとにしているので、追跡期間中に身体活動量が変わった人がいて、それが結果に何らかの影響をおよぼしている可能性は否定できません。また、本研究の対象者の年齢は50-79歳でしたので、それ以外の年齢の人にも本研究の結果が当てはまるかは不明です。

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