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多目的コホート研究(JPHC Study)

居住形態の変化と脳卒中発症リスクとの関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)および平成5年(1993年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいで5年後調査時に45~74歳の男女約7万7千人の方々を約14年間追跡した調査結果にもとづいて、居住形態の変化(家族の獲得あるいは喪失)と脳卒中発症との関連を調べた結果を発表しましたので紹介します(PLoS One 2017年4月)。

 

家族構成の変化と脳卒中発症リスク

家族構成は身体的健康、精神的健康に影響をあたえる重要な要因のひとつであることが、これまでの先行研究で指摘されています。また、配偶者を亡くされたなどの家族構成の変化が健康に影響を及ぼすことも検討されています。しかし、家族の増加を含めた家族形態の変化と脳卒中発症リスクとの関連についての検討はこれまでにありませんでした。
そこで、本研究では、日本人における家族形態の変化が脳卒中の発症に及ぼす影響を検討しました。今回の研究では、アンケート調査の結果を用いて、研究開始時の家族構成から5年後の調査時までの家族構成の変化を同定し、その後の脳卒中の発症リスクを算定しました。

 

家族構成変化の経験がある人の脳卒中の発症リスクが高い

追跡期間中に、3,858人が脳卒中(脳出血が1,485人、脳梗塞が2,373人)を発症しました。
分析の結果、家族構成が変わっていない者と比べて、家族を少なくとも一人喪失した者は、脳卒中リスクが男性で1.15倍、女性で1.11倍という結果でした。また、家族構成が変わっていない女性と比べて、家族が少なくとも一人増加した女性の脳卒中リスクは1.16倍、増加と喪失の両方があった女性の脳卒中リスクは1.22倍という結果でした。男性では家族の増加あるいは増減両方がある者での脳卒中リスクの増加はみられませんでした。

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配偶者を喪失した人は、脳卒中発症リスクが高い

次に、家族構成変化の中でも、配偶者の喪失について解析を行いました。配偶者を喪失した人は、男女共に脳卒中発症リスクが高い結果となりました。特に、男性では脳梗塞(1.26倍)、女性では脳出血(1.23倍)でリスクの増加がみられました(図2)。

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家族に親が増えた女性は、脳出血発症リスクが高い

家族に誰を迎えたかを詳細に分析した結果、親を家族に迎えた女性の脳卒中リスクは家族構成が変わっていない者と比べて1.49倍であり、特に脳出血では1.89倍であることがわかりました。男性では明らかな脳卒中リスク増加が見られませんでした(図3)。

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なぜ、特に配偶者喪失と、親の増加(女性)で、脳卒中リスクが高くなるのでしょう。

家族構成のなかでも、特に、配偶者の喪失が脳卒中の発症リスクの上昇と関連を認めた理由として、配偶者を失うことによる生活習慣や精神状態の変化が考えられます。これまでの先行研究により、配偶者を失うと飲酒量が増えたり、野菜や果物の摂取が減ったりするような変化があることが報告されています。また、精神的ストレスレベルが上昇し、生活を楽しめなくなる傾向にあることも示されています。このような配偶者の喪失により起こる様々な変化が脳卒中の発症リスクを上昇させているのではないかと考えられます。
また、親を家族に迎えた女性で脳卒中の発症リスクが上昇した理由として、経済的な負担が増加したことや、女性が親の世話をする機会が多く、その負担が大きいことなどが考えられます。

 

この研究について

これまで日本において家族構成の変化と脳卒中発症リスクの関連を示した疫学研究はなく、特に家族の増減の両面について検討した研究は海外でもありませんでした。家族構成の変化が生活習慣や生活スタイルを変化させ、脳卒中発症リスクに影響を与えるということは個人の要因に加えて家族要因にも目を向ける必要があることを示しています。また、家族構成の変化と脳卒中発症リスクの関係において性差がみられたことは、今後、脳卒中の発症要因として、男性と女性の社会的役割の違いも考慮する必要があることを示しています。

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