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現在までの成果

既存の大腸がん罹患の予測モデルに遺伝的なリスクスコアを追加することで予測性能が向上

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2016年現在)管内にお住まいだった方々に、アンケート調査と血液の提供をお願いし、その後のがんの罹患状況について追跡調査を実施してきました。今回は、平成21年(2009年)まで追跡した調査結果に基づき、解析に必要なデータが揃った40歳から69歳の男性11883人を対象として、遺伝的なリスクスコアを加えた大腸がん罹患の予測モデルの性能を評価した結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Cancer Prevention Research 2017)。

我々は、すでにアンケート調査から得られる情報に基づいて10年間に大腸がんに罹患する確率を計算するための予測モデルを作成し、公表しています。(過去の概要版はこちらをご覧ください[男性が10年間で大腸がんを発生する確率について:危険因子による個人のがん発生の予測]) このモデルは、男性を対象に、年齢、肥満度、身体活動度、飲酒、喫煙の5つのリスク要因の保有状況に応じて、大腸がんに罹患する確率が計算できるものです。多くの大腸がんは、年齢に加え、前述のような生活習慣などの環境要因がリスク要因として重要であると言われていますが、近年のゲノム解析研究の進歩によって、大腸がんの発生に関連するゲノム上の領域が明らかになってきました。このような研究成果を踏まえ、大腸がん罹患を予測する上で遺伝的な要因がどの程度役立つかという視点での研究が行われるようになりました。そこで、今回は日本人男性集団における大腸がん罹患の予測モデルに、遺伝的なリスクスコアを追加した場合の予測性能を評価しました。

 

遺伝的なリスクスコアが高いほど大腸がん罹患のリスクが増加

文献レビューにより大腸がん罹患との関連が報告されている43の遺伝子多型(遺伝情報に関する詳細はこちらをご覧ください[遺伝子情報に関する詳細])のうち、多型情報が利用可能な36について、大腸がん罹患との関連を検討しました。統計学的な有意水準を10%に設定した場合に、6つの遺伝子多型が大腸がん罹患のリスクと有意に関連していました。この結果をもとに、それぞれの遺伝子多型のタイプによるリスクの大きさで重み付して、6つの遺伝子多型の組み合わせによるスコアを作成しました。そのスコアを5等分割し、最小群を基準に大腸がん罹患のリスクを計算すると、スコアが高くなるにつれてリスクが有意に増加するという関連が見られました(図)。

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生活習慣と遺伝的なリスクスコアの組み合わせと10年間に大腸がんに罹患する確率

前回の検討では、5年後調査アンケートに基づき、年齢、肥満度、身体活動度、飲酒、喫煙の5つのリスク要因でモデルを作成しました。今回は、ベースライン調査アンケートを用いたことから、身体活動度については前回と同じ評価が出来ず、予測モデルには使用しませんでした。そこで肥満度、飲酒、喫煙の情報を用いて、リスクグループの例として、body mass index(BMI)が23、非飲酒、かつ非喫煙の方を低リスクグループ、BMIが27、飲酒者(毎日日本酒換算で2合程度以上の飲酒する方)、かつ喫煙者(過去・現在喫煙含む)を高リスクグループと定義して、遺伝的なリスクスコアと組み合わせて、40歳から5歳毎に確率を計算しました(表)。生活習慣要因が低リスクグループに属し、かつ遺伝的なリスクスコアが最小群の40歳男性では、10年間の大腸がん罹患確率は0.16%であるのに対して、生活習慣要因が高リスクグループかつ遺伝的なリスクスコアが最高群では3.3%でした。同様に70歳男性では最もリスクが低い群で0.53%、最も高い群で11%でした。
これまでは生活習慣要因によるモデルで大腸がんの罹患確率を推計していましたが、これに遺伝的リスクスコアを追加して推計した場合に、どの程度、罹患確率による分類が改善したかを評価する指標でみると、確率の低い人はより低く、また高い人はより高くなる方向で、予測値が改善する傾向が見られました。 

 

表.生活習慣と遺伝的なリスクスコアの組み合わせと10年間に大腸がんに罹患する確率(%

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*低リスクグループ:body mass index(BMI)が23、非飲酒、かつ非喫煙の人
**高リスクグループ:BMIが27、飲酒者(毎日日本酒で2合程度以上の飲酒する人)、かつ喫煙者(過去・現在喫煙含む)

 

この研究について

大腸がん罹患との関連が報告されている遺伝子多型を用いて作成した遺伝的なリスクスコアが、大腸がん罹患リスクと関連することを確認しました。さらに、主に生活習慣要因で構成された大腸がん罹患の予測モデルに、この遺伝的なリスクスコアを加えることにより、予測性能が改善することが示されました。

本研究では、解析対象者において大腸がん罹患との関連が観察された6つの遺伝子多型を用いて遺伝的なリスクスコアを作成しました。他の集団を対象とした時に、今回の6つの遺伝子多型及び遺伝的なリスクスコアが、本研究と同じように大腸がん罹患に関連するかどうかは重要な点です。しかし、本研究では日本人男性を対象に遺伝的なリスクスコアの再現性までは確認できておらず、今後の課題になります。

予測モデルの実用化を考えた場合には、確率の予測が簡便にできるという点も重要になります。その点、従来の予測モデルは、自己申告のアンケート調査から確率の予測が可能ですが、これに遺伝的なリスクスコアを追加するとなると、遺伝子多型の検査費用などの負担が増えることになります。したがって、予測性能の改善の程度が、追加する情報を得るための負担に見合うものかどうかは慎重に検討する必要があります。また、遺伝的なリスクスコアについては、生活習慣のように改善することが出来ないという側面も留意しなければなりません。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。多目的コホート研究では、ホームページに多層的オミックス技術を用いる研究計画のご案内遺伝情報に関する詳細も掲載しています。

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