トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >HDLコレステロールと循環器疾患発症との関連について

現在までの成果

HDLコレステロールと循環器疾患発症との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の5保健所管内、平成7年(1995年)に秋田県横手、岩手県二戸、長野県佐久の3保健所管内(呼称は2017年現在)にお住まいだった方のうち、循環器疾患などの既往を有さない40~69歳で、かつHDLコレステロールを測定した30,736人を対象に、HDLコレステロールと虚血性心疾患および脳卒中の発症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Atherosclerosis 2017年)。

HDLコレステロールは善玉コレステロールと言われ、これまでの研究において、その値が低い人ほど虚血性心疾患の発症リスクが高まることが知られています。しかしながら、日本人を対象とする研究では女性についての結果が少ないこと、また、HDLコレステロールと脳卒中の発症に関しては海外の研究を含めて結果が一貫していませんでした。そこで、私たちは、15年間にわたる前向き研究によりHDLコレステロールの血中濃度と虚血性心疾患及および脳卒中の発症との関連を調べました。

 

HDLコレステロールの低値は虚血性心疾患の発症リスク増大に関連

血中HDLコレステロール濃度を男女別にそれぞれ五分位に分け、喫煙や飲酒などの他の危険因子を統計学的に調整した後、血中HDLコレステロール濃度が一番高い群(Q5)を基準とした場合の、他の群の虚血性心疾患および脳卒中の発症リスクを比較しました。
虚血性心疾患の発症について、Q5(基準)と比較して、血中HDLコレステロール濃度が一番低い群(Q1)のリスクは男性で1.85倍増加しました(図1)。女性も男性と同程度のリスクの大きさを認めましたが、他の要因を統計学的に調整した場合に関連は弱くなりました。一方、脳卒中の発症については、男性では、統計学的有意に、血中HDLコレステロール濃度が低いと脳卒中発症のリスクが上昇する傾向が認められましたが、女性では関連が認められませんでした。

278_1

 

HDLコレステロールの低値はラクナ脳梗塞の発症リスクを上昇させる

CT等の画像診断に基づき、脳卒中を、くも膜下出血、脳出血、ラクナ脳梗塞(脳の奥深くにある細い血管がつまる脳梗塞)、および皮質枝系脳梗塞(脳の太い血管の粥状動脈硬化が原因でつまる脳梗塞)、脳塞栓(主に心臓でできた血栓が脳に飛んでつまる脳梗塞)に分けて、HDLコレステロールとの関連を検討しました。その結果、男女ともラクナ脳梗塞について、Q5(基準)と比較して一番低い群Q1で、発症のリスクが統計学的有意に上昇しました(図2)。しかしながら、女性の脳出血発症については、Q5と比較してQ1で、発症のリスクが統計学的有意に低下していました。

278_2 

 

さらなる研究が必要

これまでの研究と同様、HDLコレステロール値が低い人ほど虚血性心疾患の発症リスクが高まることが日本人でも明らかとなりました。脳卒中については、HDLコレステロール値が低い男性の脳卒中のリスクが高まり、さらに、ラクナ脳梗塞では、男女ともリスクが高くなりました。ラクナ脳梗塞は、脳の奥深くにある小さな動脈に血栓がつまって起こる、日本人に比較的多いタイプの脳梗塞です。これまでの研究から、ラクナ脳梗塞は、一般的な動脈硬化(比較的太い動脈に起こる動脈硬化)とは違い、小さな動脈に血栓ができることで発症しやすいと報告されてきました。したがって、ラクナ脳梗塞の原因である、小さな動脈の血栓生成には、HDLコレステロールは関係がないと考えられてきました。しかしながら、本研究において、HDLコレステロールの低値が、ラクナ脳梗塞の発症リスクを高めた結果から考えると、HDLには、比較的太い動脈の動脈硬化を予防する作用に加えて、小さな動脈での血栓形成を予防する作用もあり、HDLコレステロール値が低下することにより小さな血管で血栓がつまりやすくなった可能性が示唆されました。また、HDLコレステロールが低いと脳出血のリスクが低下する(女性のみ)関連は、HDLが持つ血小板機能への影響を反映しているのかもしれません。ただし、HDLコレステロールの循環器疾患発症に及ぼす役割に関してはまだ解明されていないところも多く、今後のさらなる研究が必要です。一般的に、HDLコレステロールは、喫煙、肥満、運動不足で低下すると言われています。HDLコレステロールを下げないためには、こうした生活習慣の改善が必要です。

 

上に戻る