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多目的コホート研究(JPHC Study)

成人期の肥満度(BMI)変化と食道扁平上皮がん罹患との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2017年現在)管内にお住まいだった方々のうち、がんや循環器疾患になっていなかった40~69歳の男女約10万人を、平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、成人期の肥満度(Body Mass Index;BMI)変化と食道扁平上皮がん罹患との関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Br J Cancer.2017 Nov 21;117(11):1715-1722)。

現在までの研究から、肥満は様々ながんのリスク要因であることが報告されています。近年、欧米で急増している腺がんでは、食べ物や胃液などが胃から食道に逆流する「胃・食道逆流症」に加え、肥満により確実にリスクが高くなるとされています。一方、食道がんの90%以上をしめる扁平上皮がんについては、BMIが低いと食道扁平上皮がんの罹患リスクが高いことが示唆されています。しかしながら、体重減少は、がんの初期症状として起こることがあるため、食道扁平上皮がんと診断された時点で、体重減少が進んでいた可能性があります。つまり、BMIが低いこと自体が、食道扁平上皮がんのリスク増加につながるかどうかは明らかになっていません。さらに、BMIは年齢によって変わるため、経年的な変化を考慮して、食道扁平上皮がんリスクとの関連を検討する必要があります。そこで、成人期のBMI変化と食道扁平上皮がん罹患リスクとの関連を検討することを今回の研究の目的としました。

 

成人期のBMI増加は食道扁平上皮がん罹患のリスク低下と関連

調査開始時のアンケート調査から、現在のBMI[体重(kg)÷身長(m)2]を算出し、それを4つのグループ(<18.5、18.5-24.9、25-29.9、≥30.0)に分けて、その後の食道扁平上皮がん罹患を比較しました。また、調査開始時及び5年後調査・10年後調査時のアンケート調査で得られた体重をもとに、20歳時点でのBMIと調査開始時までのBMI変化の度合いを推計し、その変化率4分位(Q1;<0%、Q2;0-1.34%、Q3;1.34-3.03%、Q4;>3.03%)とその後の食道扁平上皮がん罹患との関連を分析しました。
本研究の追跡調査中には、追跡開始から5年以内の罹患を除き、男女計342人の食道扁平上皮がんが確認されました。
全体として、20歳時点から調査開始時までのBMI増加率の高い群で、食道扁平上皮がんのリスクが統計学的有意に低下する傾向が見られました(BMI5年間あたり1%の増加につき、食道扁平上皮がんのリスクが15%低下)(図1)。

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成人期の肥満度増加と食道扁平上皮がんのリスク低下はどう関係しているのか

なぜ成人期の肥満度(BMI)増加で食道扁平上皮がんのリスクが下がるのでしょうか。脂肪やたんぱく質摂取などの食習慣と食道扁平上皮がんとの関連は先行研究では報告されていませんが、炭水化物や魚の摂取が多いと、食道扁平上皮がんのリスクが低いという関連は、一部の研究で示唆されています。一方、加齢による体重増加は、適正な範囲内であれば良好な健康状態を示す可能性があり、それらのことが、食道扁平上皮がんリスクの低下と関連していると考えられます。また、先行研究では、遺伝的な要因が関係していることも報告されています。今後の研究では、さらに詳細な遺伝要因と環境要因の双方を検討する必要があるでしょう。

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