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現在までの成果

糖尿病感受性遺伝子多型による2型糖尿病罹患の予測能について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2018年現在)管内にお住まいだった4753人※1を対象として、糖尿病感受性遺伝子多型による2型糖尿病罹患の予測能との関係を調べました。その結果を専門誌で論文発表しましたので紹介いたします(Diabet Med 2018年2月 ウェブ先行公開)。

※1 4753人の内訳 1995~1998年に行った5年後調査から5年間の観察中に新たに糖尿病に罹患した466人と、罹患しなかった1361人(罹患リスク検証セット)。5年後調査や2000~2003年に行った10年後調査の時点で糖尿病を有していた1463人と、有さなかった1463人(有病リスク検証セット)。

国内外のコホート研究により、年齢、性別、糖尿病の家族歴、体格指標などにより、比較的正確に2型糖尿病(最も多いタイプの糖尿病)の罹患予測ができることが報告されています。さらに、症例対照研究注1)により、特定の遺伝子に多型(人による遺伝子配列の違い)があると2型糖尿病のなりやすくなることが報告されています(糖尿病感受性遺伝子多型と呼ばれます)[遺伝子情報に関する詳細]。これまでゲノムワイド関連解析注2)により、日本人においても数十個以上の遺伝子多型が2型糖尿病と関連することが報告されています。しかし、これまでの研究の多くは糖尿病患者と非糖尿病患者の比較に基づくもので、日本人一般集団ではその関係は十分に検討されていませんでした。さらに、遺伝子多型により、糖尿病に罹患していなかった人のその後の糖尿病罹患リスクが変わるか否かについてはよく分かっていません。

注1)症例対照研究:ある時点で特定の病気にかかっている人(症例群)と、その病気ではない人(対照群)を比べて、疾病の要因等を探る研究

注2)ゲノムワイド関連解析:約30億の塩基配列で構成されるヒトゲノム全体をカバーするように、一部の代表的な塩基配列を選んで網羅的に分析する研究

  

CDKAL1, KCNQ1, CDKN2A/Bなどの遺伝子多型を有すると糖尿病リスクが高い

まず、計4753人の集団において、これまでゲノムワイド関連解析で同定された遺伝子多型のうち、代表的な11箇所の遺伝子多型それぞれについて、年齢、性別、居住地域を統計学的に調整した上で分析を行いました。その結果、CDKAL1, KCNQ1, CDKN2A/Bという遺伝子領域に特定の多型(糖尿病感受性多型)を持つ場合は、糖尿病のなりやすさ(オッズ比)が、それぞれ1.28、1.21、1.27倍であることがわかりました(図1)。  

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糖尿病感受性遺伝子多型を多く有するほど糖尿病リスクが高い

次に、5年後調査以降の5年間に、糖尿病を罹患した466人と罹患しなかった1361人(計1827人)を、前述の11種類の糖尿病感受性遺伝子多型をもつ数※2で5つのグループ分け(Q1; 3~9個、Q2; 10個、Q3; 11個、Q4; 12個、Q5; 13~17個)をして、性別、年齢、体格指標、糖尿病家族歴、喫煙歴、降圧薬服用で統計学的に補正した上で、糖尿病罹患のリスクを比較しました。糖尿病感受性遺伝子多型をもつ数が最も少ないグループ(Q1)に比べ、最も多いグループ(Q5)の糖尿病リスクは2.34倍でした(図2)。

※2 糖尿病感受性遺伝子多型をもつ数:1箇所の遺伝子多型あたりの多型の数は0~2個で人により異なります。11箇所の遺伝子多型の数を合計すると0~22個の可能性がありますが、比較的稀な多型もあり、本研究の対象集団では3~17個で分布していました。

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従来の糖尿病罹患の予測因子(年齢、性別、喫煙歴、体格指標、糖尿病の家族歴、降圧薬の服用)に遺伝子多型を加えると、わずかに予測能が高くなる

すでに国内外のコホート研究で糖尿病の罹患予測ができると報告されている年齢、性別、喫煙歴、体格指標、糖尿病家族歴、降圧薬服用を使って予測した場合(従来モデル)と、遺伝子多型を使った場合(遺伝子多型モデル)と、これら2つを合わせた場合(従来+遺伝子多型モデル)で、糖尿病罹患の予測能を比較しました。図3では、それぞれの曲線の下側の面積が大きいほど正確に糖尿病の罹患を予測していることを示します。遺伝子多型モデル単独(灰色)では、予測能は高くありませんでしたが、従来+遺伝子多型モデル(水色)が最も面積が広く、従来モデル(橙色)と比較して、わずかに(2.1%)予測能が高くなりました。

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この研究について

本研究では、先行研究同様、遺伝子多型情報は糖尿病のなりやすさと関係することが確認されました。しかし、従来の糖尿病罹患の予測因子による糖尿病罹患の予測能へ、遺伝子多型情報を追加することによる予測能の向上はわずかであり、糖尿病予防のために遺伝子多型の情報を使用する臨床的有用性は限定的かもしれません。本研究では11個の遺伝子多型情報を用いましたが、他にも日本人の糖尿病罹患を予測する遺伝子多型が存在する可能性があります。また、先行研究では血糖値を考慮したモデルも開発されていますが、本研究では、一部の対象者の血糖値データがなかったために、血糖値の軽度の変化など、将来の糖尿病の罹患をより強く予測する因子を検討できていません。今後は、血糖値を考慮した糖尿病罹患予測モデルの開発を行い、ほかの遺伝子多型をモデルに追加し予測能が向上するかの検討など、さらなる研究が必要と思われます。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。多目的コホート研究では、ホームページに多層的オミックス技術を用いる研究計画のご案内や遺伝情報に関する詳細も掲載しています。

 

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