トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >DPCデータを用いた脳卒中・急性心筋梗塞発症把握の可能性の検討
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

DPCデータを用いた脳卒中・急性心筋梗塞発症把握の可能性の検討

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。このような研究ではがん・脳卒中・心筋梗塞などの病気の発生の有無を長期にわたる追跡調査によって明らかにすることが必要です。
しかし、わが国には、脳卒中や急性心筋梗塞に代表される循環器疾患の全国的な発症登録システムがありません。そのため、日本における循環器疾患の発症動向は、いくつかの地域の縦断的な疫学研究において登録された疾患数に頼ってきましたが、その登録作業は大変な労力を要するもので、研究基盤のない地域で新しく循環器疾患発症登録を実施するのは現実的ではありませんでした。今回、医療機関のDPCデータ※を利用して、ある医療機関における循環器疾患の発症数の概数を把握できる可能性を専門誌に報告しましたので、ご紹介します(日本公衆衛生雑誌 2018年)。

 

※DPCデータとは

DPC(diagnosis procedure combination)は、医療の質の向上と医療費の適正化のために用いられる、診断名と行われた医療行為(治療・処置の内容)から分類する、2003年から導入されたシステムであり、現在では、約1600の医療機関に導入されています。

 

今回の研究の目的と方法

各患者のDPCデータの診断名(DPC診断名)には主病名だけではなく併存合併症が含まれています。このDPC診断名とDPCデータに含まれる治療・処置情報を組み合わせて判定される診断名は、DPC診断名のみを用いた場合より、医師による医療記録との一致度が高くなることが報告されています。韓国や台湾などでは、DPCや類似のデータベースを活用して判定した診断名を追跡に使った大規模研究の例も見られています。
わが国においても、DPC診断名とDPCデータに含まれる治療や処置に関する情報の組み合わせによって、脳卒中や心筋梗塞の発症が把握できれば、DPCデータを用いた特定の地域における脳卒中・心筋梗塞発症数の把握や、各地で実施されているコホート研究における発症登録への活用が期待できます。
そこで本研究では、多目的コホート研究(JPHC研究)の一対象地域において、JPHC研究で収集した脳卒中及び急性心筋梗塞の発症数と、同地域の医療機関におけるDPCデータから推測した発症数の比較を行いました。
具体的には、多目的コホート研究における当該地域の協力医療機関A病院を抽出し、A病院における2011年及び2012年の急性心筋梗塞、脳梗塞、脳内出血の発症登録数を集計しました(JPHC研究登録症例数)。次に、A病院のDPCデータの「主傷病名」、「入院契機となった病名」、「医療資源を最も投入した病名」、「医療資源を二番目に投入した病名」という4つのDPC診断名のいずれかに該当する入院患者数を求めました。JPHC研究登録症例数は、病院の診療録から得られた情報を国際的な基準により判定し把握したものであり、本研究ではこれを基準としてDPC診断名による入院患者数と比較しました。

 

DPCにおける入院患者数と、JPHC登録者数は急性心筋梗塞、脳内出血では概ね一致

その結果、DPC診断名から求めた入院患者数と、JPHC研究登録症例者数は、急性心筋梗塞、脳内出血では概ね一致していました。脳梗塞については、JPHC研究登録症例数はDPC診断名から推定した入院者数より3割少なくなっていました。これは、DPC診断名の脳梗塞の中には、無症候性脳梗塞など、コホート研究で登録される際に用いられる国際的基準では脳梗塞の発症とは分類できないものが含まれていることなどが理由として考えられます。そのため、脳梗塞のより正確な(JPHC研究登録症例数に近い)発症数の同定についてはDPC診断名に加えて、急性期脳梗塞に特異的な治療・処置情報を活用することが必要と考えられます。特に脳梗塞では脳内出血と比較し、MRI撮影が多く実施され、エダラボン、カタクロット及びアクチバシンといった薬剤の投与が多くみられました。これらを組み合わせて症例を同定することで、さらに精度が向上する可能性があるため、今後その検討を行っていく予定です。
本研究は、あくまで集団間における症例数の比較であり、診断日が同じ個々の症例を照合して検討してはいません。DPCデータの利用可能性をより詳細に検証するためには、個々の症例単位で診断が一致するか検討した研究の実施が望まれます。

295_1

  

今後の方向性

今回の研究結果から、DPCデータを利用して循環器疾患の発症数を推計した場合、脳梗塞の症例数は過大評価となる可能性がある一方、急性心筋梗塞と脳内出血の発症数の把握にはDPCデータを活用できる可能性が示されました。今後、DPCデータの治療・処置情報を補助的に活用することによって、脳梗塞については、より正確な症例の把握が可能かどうかを検討する必要があります。また、急性心筋梗塞及び脳内出血についても、個々の症例の発症登録に活用できるかどうか更なる研究が必要です。

上に戻る