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多目的コホート研究(JPHC Study)

アブラナ科野菜と全死亡および疾患別死亡との関連について

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2018年現在)管内にお住まいだった方々のうち、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答した、45~74歳の約9万人の方々を平成26年(2014年)まで追跡した調査結果にもとづいて、アブラナ科野菜摂取と全死亡および疾患別死亡の関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Clin Nutr.2019 Apr;38(2):631-643)。

アブラナ科野菜は、抗がん、抗炎症および抗酸化活性が動物実験などで示されているイソチオシアネートを多く含むことから、慢性疾患を予防する働きを持つことが期待されています。これまでの研究では、アブラナ科野菜摂取と全死亡、がん死亡、循環器疾患死亡との関連を調べた研究はありましたが、確かな結論に至っておらず、その他の主要死因との関連について包括的に検討した研究はありませんでした。そこで、私たちは、日本人88,184人(男性40,622人・女性47,562人)におけるアブラナ科野菜摂取と全死亡および疾患別死亡との関連を調べました。 本研究では、138項目の食物摂取頻度質問票(FFQ)の回答を用い、漬け物を含む11項目のアブラナ科野菜(キャベツ、だいこん、小松菜、ブロッコリー、白菜、チンゲンサイ、からし菜、フダンソウ、たくあん、野沢菜漬け、白菜漬け)より総アブラナ科野菜摂取量を推定し、それぞれ男女別の摂取量により5つのグループに分類しました。その後、アブラナ科野菜摂取量が一番少なかったグループを基準とし、その他のグループの全死亡、がん、心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患および外因死を含む主要死因死亡リスクとの関連を検討しました。

 

男性、女性ともにアブラナ科野菜の摂取量が多いほど全死亡リスクが減少し、男性でがん、女性で心疾患、脳血管疾患、外因による死亡リスクも減少

2014年までの追跡の結果、15,349人の死亡が確認されました。全死亡リスクは、アブラナ科野菜摂取が一番少ないグループと比較して、一番多いグループで、男性では14% (図1)、女性では11%低くなっていました(図2)。
続いて、アブラナ科野菜摂取と疾患別死亡との関連を検討したところ、男性ではアブラナ科野菜摂取が一番多いグループでがん死亡リスクが統計学的有意に低下していました(図1)。女性では、アブラナ科野菜摂取量が一番多いグループで心疾患、外因による死亡リスクが統計学的有意に低くなっており、脳血管疾患による死亡リスクも統計学的有意ではありませんが、同様の関連がみられました(図2)。個別のアブラナ科野菜と全死亡リスクの関連についても調べてみたところ、男性ではブロッコリー、たくあん摂取量が一番多いグループで、女性では大根、ブロッコリー摂取量が一番多いグループで死亡リスクの減少が見られました。
喫煙状況別での追加検討も行ったところ、男性では、喫煙状況に関係なく、アブラナ科野菜摂取量が多いグループで統計学的有意に全死亡リスクが低下する傾向が見られました。また、男性の過去・現在喫煙者において、アブラナ科野菜摂取量が一番多いグループで、がん死亡リスクが統計学的有意に低下していましたが、非喫煙者では同様の関連は見られませんでした。女性は喫煙者の割合が少なく、喫煙者のみでの検討はできませんでした。

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なぜアブラナ科野菜摂取量が多いと死亡リスクの低下が見られるのか

アブラナ科野菜にはイソチオシアネートや抗酸化性ビタミンなどが多く含まれることが知られており、それらの抗炎症および抗酸化作用が死亡リスクの低下に寄与しているのかもしれません。今回、男性のがん死亡については、特に喫煙者でアブラナ科野菜摂取量とがん死亡に負の関連が見られました。イソチオシアネートを多く摂取することで、タバコに含まれる発がん物質前駆体の活性化が抑制されていることが理由の一つと考えられます。一方、女性においては、アブラナ科野菜摂取量と心疾患および脳血管疾患死亡リスクとの間に負の関連が認められました。この傾向は先行研究とも一致しており、イソチオシアネートの抗炎症作用によるものである可能性が考えられます。また、本研究では、女性において、アブラナ科野菜摂取量と外因死のリスクに負の関連が見られました。これまでの疫学研究において、アブラナ科野菜を摂取することによる認知機能改善効果、抑うつ予防効果の報告があり、そのことが、事故死および自殺予防につながっている可能性が考えられます。
本研究の結果から、アブラナ科野菜の摂取は死亡リスク低下と関連があることが示唆されました。今後は詳細なメカニズムを明らかにするため、イソチオシアネートの種類を詳細に検討する解析や、尿中イソチオシアネートなどの生体指標を用いての検討も必要であると考えられます。

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