多目的コホート研究(JPHC Study)
2014/06/26 脳卒中と自殺および他の外因死との関連について
JPHC研究からの論文発表のお知らせ
多目的コホート(JPHC)研究から、脳卒中の発症と自殺および他の外因死との関連について検討した研究の結果が発表されました。この研究により、脳卒中になっていないグループに対する、脳卒中発症から5年以内のグループにおける自殺および他の外因死のリスクはともに約10倍という結果が得られました。
この論文の状況は以下のとおりです。
Psychosom Med.Jul-Aug 2014;76(6):452-9
脳卒中発症から5年以内の自殺および他の外因死のリスクが有意に高い
自殺に関連する要因として、精神疾患があることは良く知られていますが、身体疾患との関連についてはあまりよく分かっていません。また、他の外因死(不慮の事故など)についても、自殺と同様に様々な心理社会的要因との関連が示唆されています。そこで、本研究では、脳卒中の発症がその後の自殺および他の外因死に及ぼすリスクについて検討しました。 多目的コホートの40~69歳の男女約12万人を研究開始(1990年または1993年)から2010年まで追跡した調査結果をもとに、脳卒中発症と自殺のリスクとの関連を検討しました。追跡期間中に脳卒中を発症したグループでは、その後5年以内に17人が自殺により、34人がその他の外因により亡くなりました。また、脳卒中から5年目以降の自殺は5人、外因死は19人でした。一方、脳卒中になっていないグループでは490人が自殺により、675人がその他の外因により亡くなりました。 解析の結果、脳卒中になっていないグループの自殺のリスクおよび他の外因死のリスクに比べ、脳卒中を発症したグループの5年以内の自殺のリスクおよび他の外因死のリスクはともに約10倍でした。一方、診断後5年以上経過した自殺のリスクおよび他の外因死のリスクは、脳卒中になっていないグループと違いがみられませんでした。
先行研究では、脳卒中の発症後に、いわゆるうつ病のリスクが高まることが指摘されています。うつ病は、自殺の最大の危険因子のひとつです。さらに、脳卒中後には様々な身体的および認知的な障害が残ることが多く、心理的なストレスやライフスタイルの変化が大きいこと、不慮の事故のリスクが高まることなどが原因であると考えられます。
この研究の結果は、脳卒中発症後5年以内において(1)脳卒中後のうつ病・抑うつ状態をきちんと把握すること、(2)脳卒中後のリハビリテーションにより身体的および認知的な障害の程度を小さくすることが、自殺および他の外因死の予防を考えるうえで重要であることを示唆するものと考えられます。
すでに、多目的コホート研究からの成果として、がん診断から1年以内は自殺および他の外因死のリスクが高いことを報告しました。一方、今回の研究では、脳卒中から5年以内の自殺および他の外因死のリスクについて分析を行いました。その理由としては、(1)追跡期間中に脳卒中を発症した人数が、がんに罹患した人数と比較してかなり少ないため、脳卒中発症後1年以内のリスクを分析するのが統計学的に難しいこと、(2)先行研究で脳卒中発症から数年~5年以内のリスクが高いことが示唆されていること、が挙げられます。
詳しくは、ホームページに掲載された概要版をご覧ください。