多目的コホート研究(JPHC Study)
2004/8/3 緑茶と胃がん罹患の関係
多目的コホート(JPHC)研究から、緑茶と胃がん罹患の関係を調べた論文が発表されました。
( 「キャンサー・コージズ・アンド・コントロール」Volume 15, pages 483-491)
その結果、緑茶をよく飲む女性では胃がんリスクが低くなることが示されました。
緑茶論争
「緑茶でがんが予防できるわけ」というタイトルで緑茶成分のカテキン(EGCG)の発がん抑制作用を説明する記事が英科学誌ネイチャーに掲載されたのが 1997 年 6 月のこと(Nature 1997;387:561)。その頃から欧米にグリーンティーの大ブームが巻き起こったと聞きます。日本でも「食べるお茶」が登場するなどの流行がありました。また 2004 年 3月には、EGCGの標的分子が日本人研究者によって発見されたという研究が話題になりました(Nat Struct Mol Biol. 2004;11:330-331)。
人を対象とした疫学研究でも、緑茶の胃がん予防効果について、初期の研究の多くが「あり」とする結果を発表していました。ところが、緑茶の本家本元である日本から、2001 年 3 月、緑茶をたくさん飲むグループでも胃がんリスクが減少しなかったという研究結果が、東北大学の研究チームによって発表されました(New England Journal of Medicine 2001; 344:632-636) 宮城県民約 2 万 6 千人を 9 年間追跡した、それまでで最大級のコホート研究であり、より信頼できる研究結果と考えられまた。
この論文の第一著者である坪野吉孝先生のホームページもご参照ください。
さらに、2002 年 8 月に発表された文部科学省研究班によるがんコホート研究では、約 7 万 3000 人を胃がん死亡について約 8 年追跡期間した結果、「緑茶を飲むと胃がん死亡リスクが減るという関係は認められなかった」と報告されています(British Journal of Cancer 2002; 87:309-313)。
やはり胃がんは緑茶で予防できる
一方、今回紹介するJPHC研究は、約 7 万 3000 人を胃がん罹患について 7〜12 年追跡した、これまでで最大級のコホート研究です。その結果、女性では緑茶をよく飲む人で胃がんリスクが低いことがわかりました。
さらに、がんのできる部位に着目してくわしく調べてみました。すると、興味深いことに、胃がん全体の9割を占める胃の下のほうでは、はっきりと緑茶による胃がん予防効果を確認できたのです。それに対し、食道に続く胃の上の方のがんでは、予防効果はみられませんでした。
では、なぜ胃の上部と下部で緑茶の効果がちがうのでしょうか? 熱い飲み物は食道がんリスクとして知られ、英国の女性に食道がんが多いのは紅茶を熱くしたまま飲む習慣があるためではないかという研究もあります(Br J Cancer2001; 85:1667-70)。
胃の上部にも、熱い緑茶で食道と同様の影響が及ぶのかもしれません。
緑茶を飲むときは、熱いまま飲まずに少し冷ましてから飲むほうが良いでしょう。
男性の緑茶による胃がん予防効果ははっきりしませんでしたが、男性で緑茶をよく飲む人には、たばこを吸う人や伝統型食生活を送る人が多かったため、その影響を除ききれなかったのかもしれません。伝統型食生活と胃がんリスクについては、2号でお知らせしました。
詳しくは、ホームページに掲載された概要版をご覧ください。
また、詳細版はこちらからご覧いただけます。