多目的コホート研究(JPHC Study)
20歳時体重、成人後の体重の変化と乳がん
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993)年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内にお住まいだった、40~69歳の女性約4万人の方々を対象に、生活習慣についてのアンケート調査にお答えいただきました。研究開始時、その5年後、10年後に実施したアンケ-ト調査への回答から、体重をbody mass index (BMI: kg/m²)を用いて評価し、「20歳時体重」はBMIで「18.5未満」、「18.5から19.9」、「20から23.9」、「24以上」の4つのグループに、「成人後の体重の変化」もBMI単位を用い、「減少:< -2.5」「安定:-2.5から+2.49」「増加:+2.5から+4.9」「大幅増加:+5.0以上」の4つのグル-プに対象者を分けて、乳がんの発生率を比べてみました。
基礎調査時(1990-93年)から、平成18年(2006年)まで追跡した調査結果に基づいて、20歳時体重、またその後の体重変動と乳がん発生との関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(International Journal of Cancer 2011年129巻1214-1224ページ)。
20歳時体重が低いほど、乳がんになりやすい
平均約14年間の追跡期間中に、452人に乳がんの発生を確認しました。
20歳時の体重が「BMI(20から23.9)の人」に比べて「低体重(BMIが18.5から19.9)の人」では、乳がんリスクが1.45倍高いこと、また「高体重(BMIが24以上)の人」では、乳がんリスクが0.75倍低いことがわかりました(図1A)。この関連は、最近のBMIが24未満と24以上にわけても、両方のグル-プでみとめられました。閉経前と閉経後に分けると、閉経前では、20歳時に低体重であったグループで、乳がんリスクが1.57倍高くなりました(図1B)。
ホルモン受容体別では、ホルモン受容体陰性のがんで統計学的に有意な負の関連がみられました。
閉経後の女性では、成人後の体重の増加により、乳がんになりやすい
成人後の体重の変化に関して「安定している人(BMI単位:-2.5から+2.49の変動幅)」に比べて「大幅に増加している人(BMI単位:+5.0以上)」は、閉経前の女性では関連がみとめられませんでしたが、閉経後の女性では、乳がんリスクが1.79倍高いことがわかりました(図2)。この閉経後の女性の「体重増加と乳がんリスク上昇の関連」は、20歳時BMIが20未満のグル-プではみとめられず、20歳時BMIが20以上のグル-プではみとめられましたが、統計学的に有意な差はありませんでした。
ホルモン受容体別でみると、閉経後の女性における体重増加と乳がん罹患との関連は、特にホルモン受容体陽性がんで統計的有意な正の関連がみられました。
「20歳の時の体重」と「乳がん発生」の関連の考えられるメカニズム
「20歳時の体重と乳がんリスクとの関連」についてのメカニズムは、はっきりわかっておりませんが、閉経前の肥満により「排卵障害」などが起こり、乳がんリスク要因である女性ホルモン曝露量が少なくなる可能性がこれまで考えられていました。
今回の研究で、欧米に比べ肥満の割合が少ない日本人女性でも同様の関連がみとめられたことにより、「肥満以外の要因」や「やせによるリスク上昇」のメカニズムも関わる可能性が示されました。また、この関連は「ホルモン受容体陰性がん」のみに統計的に有意にみとめられましたが、この点については今後のさらなる研究が必要です。
閉経後の女性における「成人後の体重増加」による「乳がんリスクの上昇」の理由
閉経後の女性は、乳がんのリスク要因である女性ホルモンが主に脂肪組織で産生されます。そのため、閉経前でなく、閉経後の女性において、体脂肪の増加にともなう乳がんリスクの上昇がみとめられたと考えられます。ホルモン受容体別にみると、閉経後の女性における体重増加と乳がんリスク上昇の関連が「ホルモン受容体陽性乳がん」においてのみ、統計学的に有意にみとめられており、このメカニズムを裏付ける結果となりました。
乳がん予防のために望ましい体重はライフステ-ジにより異なる可能性がある
日本人において、20歳時に BMI(kg/m²)が20未満の女性は、BMI(kg/m²)20以上の女性と比べ、乳がんにかかりやすいという結果となりました。また、閉経後の乳がんについては、太りすぎを避けることが予防につながるのは確かなようです。