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多目的コホート研究(JPHC Study)

余暇運動と乳がん

 

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993)年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内にお住まいだった、40~69歳の女性約5万人の方々を対象に、生活習慣についてのアンケート調査にお答えいただきました。研究開始時、その5年後に実施したアンケ-ト調査への回答から、余暇運動(仕事のほかに何かスポーツや運動をする機会)を「月3日以内」、「週1~2日」、「週3日以上」の参加頻度で3グループに分け、また1日当たりの「総身体活動量」も運動強度指数MET(Metabolic equivalent)に活動時間をかけた「METs・時間」スコアに換算した単位を用いて3分位でグル-プに分け、乳がんの発生率を比べました。
基礎調査時(1990-93年)から、平成18年(2007年)まで追跡した調査結果に基づいて、余暇運動、また総身体活動量と乳がん発生との関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(Preventive Medicine 2011年52巻227-233ページ)。

余暇運動の参加頻度が高いほど、乳がんになりにくい

平均約14.5年間の追跡期間中に、53,578人中、652人に乳がんの発生を確認しました。
余暇運動の参加が「月3回以内の群」に比べて「週3日以上の群」では、乳がんリスクが0.73倍低いことがわかりました(図1A)。閉経状況で分けると、閉経前女性では、乳がんリスクは全体として弱い負の関連(傾向性P=0.06)がみられましたが、閉経後女性では、みられませんでした。ホルモン受容体別でみると、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性の乳がんにおいて、全体では(傾向性P=0.022)、また閉経後女性では(傾向性P=0.041)統計学的に有意な負の関連が認められました(図1B)。

図1A.余暇運動と乳がんリスク

図1B.余暇運動と乳がん(ホルモン受容体陽性の乳がん)


総身体活動量が高い女性は、閉経後においてホルモン受容体陽性の乳がんになりにくい

総身体活動量と乳がんリスクとの関連は、女性全体でも、閉経前、閉経後に分けても、みとめられませんでした(図2A)。ホルモン受容体別にみると、エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体がともに陽性の乳がんでは、女性全体では弱めの(傾向性P=0.11)、閉経後の女性では統計学的有意な(傾向性P=0.046)リスク減少の関連が認められました(図2B)。しかし、この関連は、ホルモン受容体陰性の乳がんではみられませんでした。


図2A.総身体活動量と乳がんリスク(全乳がん) 

図2B.総身体活動量と乳がんリスク(ホルモン受容体陽性の乳がん)


過体重の女性では、週1回以上の余暇運動に参加する人は、乳がんになりにくい

BMIが25未満と25以上のグル-プに分けると、25未満の人では、関連はみられませんでしたが、25以上のグル-プでは、余暇運動の参加頻度が「月3回以内の群」に比べて「週1回以上の群」では、乳がんリスクが統計学的に有意に0.65倍低いことがわかりました。ホルモン受容体別でみると、エストロゲン/プロゲステロン受容体がともに陽性の乳がんにおいて、弱い負の関連(傾向性P=0.14)がみられましたが、ホルモン受容体陰性の乳がんにおいてはみられませんでした。

図3.余暇運動と乳がんリスク BMI(kg/㎡)による層別解析

この研究について

運動には、免疫機能を改善したり、体脂肪を減らして閉経後女性のエストロゲン濃度を下げたりすることを通じて、乳がんを予防する可能性があると考えられていますが、その詳しいメカニズムは、まだはっきりわかっていません。
今回の研究では、予防的な関連が、余暇運動でみとめられ、総身体活動量ではみとめられないという結果でした。また、余暇運動と乳がんの予防的な関連は、BMI25以上の女性にあきらかでした。
さらに、余暇運動、総身体活動量ともに、閉経後においてホルモン受容体陽性の乳がんリスクとの間に予防的な関連がみられました。
ただし、これまでに、乳がん予防に有効な運動の種類、BMIや閉経状況による効果の違い、運動で予防可能な乳がんのホルモン受容体のタイプやそれぞれの要因との組合せの影響については、さまざまな研究結果があり、確かな結論を得るには今後の研究による検討が必要です。

乳がん予防のために余暇運動を生活習慣にとりいれましょう

今回の研究結果は、国際的評価と同様に、日本人において、余暇運動に積極的に参加する人は、しない人にくらべ、乳がんになりにくいことを裏付けました。とくに閉経後の女性、また太り気味の女性は、週1回でも余暇に運動をとりいれることが、乳がん予防につながると考えられます。

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