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多目的コホート研究(JPHC Study)

野菜・果物および抗酸化物質摂取と肝がんとの関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2009年現在)管内にお住まいだった、40~69歳の男女約2万人を平成17年(2005年)まで追跡した調査結果にもとづいて、野菜・果物および抗酸化物質(レチノール・α-カロテン・β-カロテン・ビタミンC)摂取量と肝がんとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します
British Journal of Cancer 2009年100巻181-184頁

今回の研究対象に該当した男女約2万人のうち、12年の追跡期間中、101人(男性69人、女性32人)が肝がんと診断されました。アンケートから計算された野菜・果物および抗酸化物質摂取量によって、3つのグループに分けて、最も少ないグループに比べ、その他のグループで肝がんのリスクが何倍になるかを調べました。

野菜摂取量が多いグループの肝がんリスクは低い

その結果、野菜と果物の合計摂取量と肝がんの発生リスクに関連はみられませんでした。種類別にみると、野菜、緑黄色野菜、緑の葉野菜では、摂取量が最も多いグループの肝がんリスクは最も少ないグループに比べ約40%減少しました。一方、果物では、摂取量が増えると肝がんリスクが高いという傾向が見られました(図1)。

図1.野菜・果物摂取と肝がんリスク

カロテン摂取量が多いグループの肝がんリスクは低い

また、抗酸化物質の種類別に摂取量を算出し、グループごとに比べてみると、レチノール摂取量と肝がんの発生リスクには関連はみられませんでしたが、α-カロテン・β-カロテンでは摂取量の最も多いグループの肝がんリスクが減少する傾向にありました。一方、ビタミンCでは、高摂取グループで肝がんリスクが高い傾向にありました(図2)。

図2.抗酸化物質摂取と肝がんリスク

野菜・果物・抗酸化物質と肝がんの関係

野菜や果物は、その中に含まれる抗酸化物質の作用によって、いろいろな部位のがんに予防的にはたらくことが報告されています。抗酸化物質のなかでもカロテノイドには、動物実験により、肝発がん抑制作用が示されています。また、肝炎ウイルス陽性の肝硬変患者にカロテノイドを投与した介入研究では、投与グループで肝がんの発生が50%減少したことが報告されています。

今回の研究では、α-カロテン、β-カロテンを多く含む野菜の高摂取グループで肝がんのリスクが低下することが示されました。また、B型・C型肝炎ウイルス陽性の有無も考慮にいれることができました。肝炎ウイルス陽性者に限ると、α-カロテン、β-カロテンの予防効果が強まりました。肝炎ウイルス陽性者では、炎症により発がんに関わるフリーラジカルが産生されるので、そのフリーラジカルを抗酸化物質が除去するというメカニズムが考えられます。

一方、同じ抗酸化物質であるビタミンCについては、たくさん摂取するとリスクが上昇する傾向がみられました。ビタミンCは、肝がんのリスク要因の一つと考えられている鉄の吸収を高めてしまうことが知られています。

以上の結果から、肝炎ウイルスに感染している人は、α-カロテン・β-カロテンを含む野菜を多く取り、ビタミンC摂取を控えた方がよい可能性が示されました。ただし、今回の研究では症例数が少なかったために、結果が偶然である可能性もありますので、今後の研究での確認が必要です。

また、肝がんになった人の8割以上がB型またはC型肝炎ウイルス陽性者でしたので、肝がん予防のためには、まず肝炎ウイルス感染の有無を知り、感染していた場合には治療をするなどの措置をとることが必要です。

野菜・果物の摂取量の推定値について

今回の研究で、対象者に実施された食物摂取頻度アンケート調査から、各グループの摂取量を算出すると、最も少ないグループの中央値は、野菜26g、α-カロテン50μg、β-カロテン602μg、ビタミンC 36mgでなり、最も多いグループは、野菜89g、α-カロテン561μg、β-カロテン232μg、ビタミンC 94mgと推定されました。

それらの値を、対象者の一部に実施されたより直接的な食事記録調査から算出された値と対比すると、食事記録調査でたずねた項目が少なかったために、野菜は77%、α-カロテンは53%、β-カロテンは57%、ビタミンCは56%ほど過小評価していました。

コホート研究などで用いられる食物摂取頻度アンケート調査は、摂取量による相対的なグループ分けには適しますが、それだけで実際の摂取量を正確に推定するのは難しく、また年齢や時代・居住地域などが限定された対象集団の値を一般化することは適当とは言えませんので、ここに示した摂取量はあくまで参考値にすぎません。

 

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