多目的コホート研究(JPHC Study)
食物繊維摂取と循環器病発症リスクとの関係について
-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成7年(1995年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成10年(1998年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、9保健所(呼称は2011年現在)管内にお住まいだった、45~74歳の男女約8万7千人を平成16年(2004年)まで追跡した調査結果にもとづいて、食物繊維摂取量と循環器病発症との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(European Journal of Clinical Nutrition. 2011年65巻1233-41ページ)。
今回の研究対象に該当した者のうち、86,387の追跡期間中、脳卒中2,553人、虚血性心疾患684人の発症を観察しました。アンケートから計算された食物繊維摂取量によって、5つの群に分けて(順に下位から20%未満、20%~40%未満、40%~60%未満、60%~80%未満、80%~100%の5群)、食物繊維摂取量が最も少ない群と比較して、その他の群で循環器病の発症リスクが何倍になるかを解析しました。
食物繊維摂取量が多い女性は循環器病発症リスクが低い
図1 男女別食物繊維摂取量カテゴリー別による循環器病発症危険度
食物繊維摂取量が最も少ない群(第1群)を基準に、食物繊維の摂取量が多い群(第3群~第5群)において、女性の循環器病発症のリスクが低いことがわかりました(危険度は第3群で0.79、第4群で0.70、第5群で0.65倍;図1)。しかし、男性ではこのような結果がみられませんでした。
水溶性食物繊維よりも不溶性食物繊維の方が脳卒中発症リスクが低い
次に、食物繊維を水溶性、不溶性に分けて調べてみました。すると、どちらの食物繊維においても、最も少ない群(第1群)を基準に、摂取量が多い群(第4、5群)において、女性の循環器病発症のリスクが低いことがわかりました。また、水溶性よりも不溶性の方で、摂取量が多いグループで脳卒中発症リスクがより低いことがわかりました(図2)。
不溶性食物繊維は、それ自体が水に溶けない分、水を多く含み数倍に膨らみ、これが腸を刺激して大腸の働きを促します。また、凝固因子を減少させ、炎症反応を下げる働きもあります。一方、水溶性食物繊維の働きは、それ自体が水に溶ける分、小腸での栄養吸収を和らげ、血糖値の急な上昇を抑え、コレステロールを減少させる働きをします。今回、不溶性食物繊維のほうで脳卒中の予防効果がみられたのは、凝固因子、炎症反応の改善などの効果が見られたものと思われます。しかし、本研究では凝固因子や炎症反応を測定していないため、その関連性は不明です。
図2 水溶性・不溶性食物繊維摂取量カテゴリー別による脳卒中発症危険度(女性)
食物繊維による循環器病予防効果が喫煙で相殺される
食物繊維摂取カテゴリーと循環器病発症との関係について、喫煙の有無別に分けて解析した。その結果、非喫煙群において、男女とも、最も少ない群(第1群)を基準に、摂取量が多い群において、循環器病発症のリスクが低いことがわかりました。一方、喫煙群では、男女とも食物繊維の摂取量が多い群で循環器病発症のリスクが低くなることはありませんでした(トレンドP:男性0.86、女性0.15)。図3は男性のみ示した。
図3 喫煙の有無別と食物繊維摂取量カテゴリー別による循環器病発症危険度
なぜ、男性では関連がみられなかったのか
今回示された食物繊維の予防的関連は男性で関連がみられませんでした。非喫煙群では、男女とも食物繊維の予防的関連はみられます。一方、喫煙群では男女とも食物繊維の予防的関連はみられません。喫煙率は女性よりも男性の方が高いので、男性全体で見ると食物繊維の予防的関連が相殺されたものと考えられます。一方、女性は喫煙率が低いので、女性全体で見た場合、食物繊維の予防的関連が残ったものと考えられます。
まとめ
本研究により、食物繊維を多く摂取すると循環器病発症リスクが低くなることがわかりました。しかし、喫煙によりその予防効果が見えなくなりました。食物繊維のタイプ別では、水溶性よりも不溶性食物繊維の方でより高い循環器病発症予防効果がみられました。