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多目的コホート研究(JPHC Study)

ビタミンサプリメント摂取とがん・循環器疾患

-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5-6年(1993-1994年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2011年現在)管内にお住まいだった方々のうち、ベースラインおよび研究開始から5年後に行なった調査時にがん、循環器疾患になっていなかった40~69歳の男女約6万人を、平成18年(2006年)まで追跡した調査結果にもとづいて、5年間のビタミンサプリメント摂取の変化と全がんおよび循環器疾患発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。 (BMC Public Health 2011年11巻 540ページ

 

ビタミンサプリメントは、がんや循環器疾患を予防するのではないかと期待をして、摂取している方も多くいるのではないでしょうか。しかしながら、疫学研究では、ビタミンサプリメントとがんや循環器疾患との関連については、予防するという研究もあれば、関連がないという研究や、リスクを上げると報告している研究もあり、結果が一貫していません。この理由として、ビタミンサプリメントの摂取は長期間で変わりうる行動であり、一時点の調査ではその摂取の変化を捉えられないことが考えられます。 そこで本研究では、研究開始時(ベースライン調査)と研究開始から5年後(5年後調査)に行った2回のアンケートの回答をもとに、ビタミンサプリメント摂取の変化を捉え、全がんおよび循環器疾患発生率との関連について検討しました。

2回のアンケートに回答した62629人のうち、追跡期間中に、4501人が何らかのがんと診断され、また1858人に循環器疾患の発症が確認されました。

ベースライン調査では、ビタミンサプリメント摂取の頻度と種類をお聞きし、週1日以上摂っている人をビタミンサプリメント摂取者と定義しました。また、5年後調査では、ビタミンサプリメント摂取の頻度、期間、種類、商品名をお聞きし、商品名を元にビタミンサプリメントを再分類して、週1日以上1年以上摂っている人をビタミンサプリメント摂取者と定義しました。5年後調査において、男女ともビタミンB群サプリメントが最も多く摂取されていました(表1)。

5年後調査におけるビタミンサプリメントの内訳

 

ビタミンサプリメント摂取変化のパターンについては、ベースライン調査・5年後調査の2回のアンケートの回答(ビタミンサプリメント摂取:あり・なし)から、①非摂取者(ベースライン調査:摂取なし・5年後調査:摂取なし)、②過去摂取者(ベースライン調査:摂取あり・5年後調査:摂取なし)、③摂取開始者(ベースライン調査:摂取なし・5年後調査:摂取あり)、④継続摂取者(ベースライン調査:摂取あり・5年後調査:摂取あり)と4つのグループに分け、非摂取者と比較して、その他のグループで全がん、循環器疾患リスクが何倍になるかを調べました。

 

女性では、ビタミンサプリメントの過去摂取者や摂取開始者で全がんリスクが高く、継続摂取者で循環器疾患リスクが低い・男性では変わらず

その結果、女性では、非摂取者に比較して、過去摂取者で17%、摂取開始者で24%、全がんリスクが上昇していました(図1)。循環器疾患に関しては、女性では、非摂取者に比較して、継続摂取者で40%リスクが減少していました(図1)。病型別にみますと脳梗塞に対して統計学的に有意なリスクの減少がみられました。

男性では、ビタミンサプリメント摂取は全がんリスクにも循環器疾患リスクにも関連していませんでした(図1)。

ビタミンサプリメント摂取変化のパターンと、全がんおよび循環器疾患との関連

 

 

ビタミンサプリメントを摂取する人の特徴を反映している可能性

追跡開始後初期に発生したがんの中には、サプリメントの影響で引き起こされたものだけではなく、追跡開始時に有していた、発見されていない早期のがんやがんを起こしやすい病態により引き起こされたものがある可能性があります。そこで、初期5年間に発生したがんを除外して解析すると、摂取開始者で認められていたリスク上昇が統計学的に有意ではなくなりました。初期に起こったがんを除外することで数が減ってしまい結果が見えにくくなったとも考えられますが、摂取開始者は潜在的に疾患があり、それがきっかけでビタミンサプリメントを飲み始めた可能性が考えられます。

また、女性のビタミンサプリメント過去摂取者でも全がんリスクが上昇しましたが、これはこのグループの生活習慣・健康意識などが影響しているのではないかと考えられます。今回の研究で、女性のビタミンサプリメント過去摂取者のグループは、他のグループと比較して、肥満者や喫煙者、高血圧や糖尿病治療の割合が高く、一方身体活動量が低いなど、不健康な特徴を有していました。今回の結果は、解析する際に、このようながんや循環器疾患のリスクを高めることがわかっている要因の影響を取り除いたのですが、取り除ききれなかった可能性、また今回の研究では調査していない因子が影響した可能性が考えられます。

女性のビタミンサプリメント継続摂取者は、他のグループと比べて、肥満者の割合が少ない、検診受診率が高い、果物や食事からの葉酸・ビタミンCの摂取が多いなどの特徴があり、このような健康的な生活習慣や健康意識が高いことも影響して、循環器疾患のリスクを下げたのかもしれません。また、今回の対象者で最も摂取されていたビタミンB群サプリメントは、ホモシステインの代謝に関連していることが知られており、脳卒中のリスクを下げる可能性があると報告している海外の研究もありますので、もしかしたらビタミンB群サプリメントが女性の循環器疾患リスクを低くすることに、一部影響したのかもしれません。

 

ビタミンサプリメントを摂取した方がよいのか

今回、女性において、ビタミンサプリメントの継続的な摂取で、循環器疾患発症リスクの低下がみられたことに関しては、ビタミンB群サプリメントの効果も考えられますが、ビタミンB群サプリメントの摂取割合も、摂取しているビタミンサプリメントの商品名回答者の中で30-40%(5年後調査時)ですので、ビタミンB群サプリメントのみの結果とは言えません。また最近海外の研究で、虚血性心疾患患者において葉酸・ビタミンB 12の併用療法が、がん罹患・全死亡リスクの上昇に関連したという結果が報告されるなど、ビタミンB群サプリメントの効果・安全性ともに確立しておりませんので、今回の研究だけでは摂取をお勧めすることはできません。

またがんに関しては、体調が悪いからと摂取を始めたり、不健康な生活の代替手段として摂取したりすることは、予防につながらない結果となりました。

さらに、男性では、どのビタミンサプリメント摂取パターンも、全がんおよび循環器疾患リスクとの間に、とくに関連は認められませんでした。

これらの結果より、ビタミンサプリメントに頼らず、科学的根拠に基づいて、食事や生活習慣の改善を目指すほうが大切です。

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