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多目的コホート研究(JPHC Study)

肥満指数(BMI)、身長と前立腺がんとの関係について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は2005年現在)管内にお住まいだった、40~69才の男性約5万人の方々を、平成16年(2003年)まで追跡した調査結果にもとづいて、肥満指数(BMI)、身長と前立腺がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します(British Journal of Cancer 2006年94巻740-742ページ)。

肥満指数(BMI)も身長も、前立腺がんリスクと関連しない

追跡期間中に、約300人の男性が前立腺がんになりました。登録時に実施したアンケート調査で、肥満指数(BMI)と身長についてそれぞれ4つにグループ分けして、前立腺がんリスクを比較しました。BMIの値は、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って求めます。
その結果、BMIについては、グループの間で前立腺がんリスクの差はみられませんでした。また、身長についても、グループによるリスクの差はありませんでした(図1)。

図1.BMI、身長と前立腺がん

進行がんのリスクが少し上昇

体型は、前立腺がんの発生よりも促進に関わるのではないかという仮説があります。そこで、病期がわかっている前立腺がんについて、前立腺内にとどまる早期がんと、それ以降の進行がんに分けて、BMIと身長によるグループの間でリスクを比べました。前立腺がんのうち約180人が早期がんで、約90人が進行がんと診断、残りの約30人は病期が不明でした。
その結果、早期がんのリスクは、体型による差はありませんでした。一方、進行がんのリスクは、BMIがより大きいグループで、また、身長のより高いグループで、少し上昇する傾向がありそうでしたが、各グループの前立腺がんの件数が少ないこともあり、はっきりした答えは得られませんでした(図2)。

図2.BMI、身長と前立腺がん(進行度別)

肥満、背の高さと前立腺がんの関係

欧米では前立腺がんの発生率は日本の約10倍ですが、その理由の一つは、肥満や背の高い人が多くを占めるためではないかと推察されています。そのことを説明するメカニズムとして、前立腺がんに影響を与えるホルモンの分泌が体格によって大きく異なることがあげられます。欧米人と日本人では、血中ホルモン濃度が違うという報告もあります。
肥満や背が高い人はインスリン様成長因子(insulin-like growth factor I, IGF-I)の濃度が高いのですが、疫学研究や動物実験で、インスリン様成長因子の前立腺がんへの関与が示されています。また、前立腺を発達させるのに重要なホルモンであるテストステロンの濃度も、肥満の影響を受けると考えられています。さらに、病気の進行(転移など)に影響を与えるレプチンという物質が、体格の大きい人でより多いということが指摘されています。
しかし、実際に肥満や背の高さが前立腺がんのリスク要因であるかどうか、これまでの前向きコホート研究の結果は、必ずしも一致していません。
今回の研究は、日本人を対象とする前向きコホート研究として初めての報告です。その結果、体型による前立腺がんのリスクの差はみられませんでした。日本人男性には、肥満(BMI30以上)の割合はわずかです。もし、肥満や身長の高い人がもっと多かったら、違う結果になったかもしれないという可能性は否定できません。

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