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多目的コホート研究(JPHC Study)

緑茶・コーヒー摂取と甲状腺がん発生との関連について

-多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。

平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所保健所(呼称は2011年現在)管内にお住まいの方々に、アンケート調査の回答をお願いしました。そのうち、40~69歳の男女約10万人について、その後平成19年(2007年)まで追跡した調査結果に基づいて、緑茶・コーヒー摂取と甲状腺がん発生との関係について調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので、紹介します(Cancer Causes & Control 2011年22巻985-993ページ)。

  甲状腺では、甲状腺ホルモンを合成する段階で、反応性酸素生成物である過酸化水素(H2O2)を必要とします。この過酸化水素の代謝システムの障害による酸化ストレスの増大が、甲状腺の発がんに関与しているのではないかという指摘があります。そこで我々は、ポリフェノールなどの抗酸化物質を含む緑茶とコーヒーには、甲状腺がんを予防する作用があるのではないかと考えました。しかしながら、緑茶とコーヒーと甲状腺がんの関連を調べた疫学研究は非常に少なく、また我々が検索した限り、前向き研究は報告されていませんでした。

 

 

緑茶摂取と甲状腺がん発生との関連は、閉経前と閉経後の女性で異なった 

調査開始時に行った緑茶を飲む頻度に関する質問への回答から、1日1杯未満、1日1-2杯、1日3-4杯、および1日5杯以上飲むという4つのグループに分けて、その後の甲状腺がんの発生率を比較しました。約14年間の追跡期間中に、男性26名、女性133名が甲状腺がんになりました。緑茶摂取と甲状腺がん発生との関連を分析した結果、男性、女性ともに、関連が認められませんでした。

 

甲状腺がんは、男性よりも女性に多く発生することから、女性ホルモン(エストロゲン)が、甲状腺がん発生に関与しているのではないかと言われています。緑茶に含まれるポリフェノール類(主にカテキン類)は、血中エストロゲン濃度に影響するという報告があります。我々は、エストロゲン濃度が大きく異なる閉経前と閉経後の女性では、緑茶摂取と甲状腺がんの発生の関連が異なる可能性があるのではないかと考えました。そこで、閉経前と閉経後の女性に分けて、緑茶摂取と甲状腺がんの発生の関連をみたところ、閉経前の女性では、緑茶をよく飲む人ほど甲状腺がんになりやすい傾向を認めた一方、閉経後の女性では、緑茶をよく飲む人ほど甲状腺がんになりにくい傾向がみられました(図1)。

 

緑茶摂取および甲状腺がん罹患との関連(女性)

 

閉経前後での緑茶の摂取と甲状腺がん発生との関連の違いは、閉経前甲状腺がんと閉経後甲状腺がんに発現している受容体の違いによるかもしれません。閉経前甲状腺がんでは、甲状腺がんの増殖に関与するとされるエストロゲン受容体αの発現が多いことが報告されています。緑茶に含まれるカテキン類にはエストロゲン様の作用があるとの報告があり、閉経前の女性では、緑茶カテキンがエストロゲン受容体αを介して甲状腺がん発生に影響している可能性があります。一方で閉経後甲状腺がんでは、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor)の発現が確認されています。閉経後の女性において緑茶が甲状腺がんに予防的に働くメカニズムは、緑茶カテキンの上皮成長因子受容体を介したがん細胞増殖を抑制する作用によるものかもしれません。

なお、今回の研究で用いた閉経状態は、調査開始時点での記録です。閉経前の女性については、甲状腺がん発生時点で閉経していた可能性があるので、慎重な解釈が必要です。

どうして閉経状態によって緑茶の摂取と甲状腺がん発生との関連が異なったのか十分な説明をするには、今のところ知見が不足しており、さらなる研究が必要です。

 

 

男女ともにコーヒー摂取と甲状腺がん発生との間には関連を認めなかった 

コーヒーの摂取については、ほとんど飲まない、週1~4日に1杯、毎日1杯以上飲む、という3つのグループに分けて検討しました。男女とも、甲状腺がん発生率との間に関連を認めませんでした。女性では、緑茶での解析と同様に閉経前後で分けて解析しましたが、同様に関連を認めませんでした(図2)。

この結果は、これまでの疫学研究(症例対照研究)を集めて行った統合解析の結果と一致していました。

 

コーヒー摂取および甲状腺がん罹患との関連(女性)

 

この研究について 

この研究では、男性では緑茶・コーヒー摂取ともに甲状腺がん発生との関連は認めませんでした。女性では、コーヒー摂取については甲状腺がん発生との関連は認めませんでしたが、緑茶摂取について、閉経前と閉経後で甲状腺がん発生との関連が異なる可能性を示しました。

日本だけでなく、世界的にも甲状腺がんの発生を増やすような因子あるいは予防する因子に関するエビデンスは不足しています。甲状腺がん予防につながるような生活習慣を提示するには、今後さらに、研究を積み重ねていく必要があると考えています。

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